一.桜

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清花はそう言って舜一郎に寄りかかった。舜一郎がその肩を抱いて掌から熱がじんわりと伝わってくる。その心地良さに清花は目を閉じた。 桜を見ながら二人の話題は清花の高校の話に移った。清花はつい二日前の木曜日に都内の高校の一年生になった。入学式のこと、中学校からの同窓である村上理香と一緒の一年四組になったこと、前の席は前田賢二という背の高い男生徒であること、席の近い穂波(ほなみ)しほりと松本星奈(まつもとほしな)という女生徒と仲良くなったこと、その次の日と部活勧誘パフォーマンスの剣道部の話が面白かったことまで話して清花は口を止めた。 「まぁ、嫌ですわ。私、自分のことばっかり……」 「いい、いい。清の高校の話には興味がある。……俺は二十二歳の大学三年生でどう頑張っても同い年にはなれないからな」 その口調には頭では理解しているが、どうにもできないがやはり寂しいという感情が滲み出ていた。清花はそれに気づいて切なくなって身体を舜一郎に向けて、その胸の中に飛び込んだ。背中に腕が回され、閉じ込められる。右手がするすると、蛇のように滑らかに上に上に移動し、肩と同じ温もりが頬にも与えられた。私は目を閉じ、その時を待った。清花の唇に重なった温度は名残惜しそうに離れていった。次いでまた抱きしめられて一体化した。 「舜一郎さん……どんなに環境が変わっても私の心は舜一郎さんのものですわ」 「嬉しいことを言ってくれる……清、可愛い髪飾りがついているぞ」 舜一郎はそう言って清花の頭に手を伸ばし、桜花を見せて、笑った。その笑顔は年相応の青年らしく快活で、清花もつられて笑みを浮かべた。
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