二.チューリップ

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「花らしいよ!」 「でも花だから許される動機でもある」 星奈の言葉にしほりも「うん、うん」と頷いた。 「花ちゃん、可愛いもんね」 しほりの言葉に清花はぼんっと顔を真っ赤にした。 「花、今日も告られてたね……しかもあれ、三年の先輩じゃなかった? しかも生徒会長!」と理香が言った。しほりと星奈は「きゃー」と黄色い悲鳴をあげるが、清花は顔を顰めた。 「一年生になってたった一週間、しかも初対面の方々に私の何が分かりますの。見た目だけで判断されるのは不愉快ですわ」 そう、不愉快だ。甚だ不愉快だ。この上なく邪魔っ気で忌々しく、鬱陶しい。見た目だけの興味だけで「一目惚れ」と称して捨て鉢の告白を宣う男子生徒も、言葉遣いに失笑し、「私がこの言葉遣いを改めないとして貴女がたは何が困りますの?」と聞いて質問に答えないどころか逆に怒る女子生徒もうんざりだ。泉中学校でも同じことがあったが、あの時よりもずっと疲れるし、粘質な分、タチが悪い。これは長期戦を覚悟しなければならないと清花は早くも悟った。 「また彼氏盗られただの、気になる人盗られただの、来ないといいね……」 泉中学校の頃を知る理香は清花がその旨で痛む頭を抱えるのを見てそう言った。その言葉にしほりも星奈も絶句した。 「昨日の三年の先輩にはなんで断ったの?」と星奈が聞いた。 清花は愚問だと言うのを堪えて言った。 「もちろん世界で一番大事な恋人が在りますから、と言って断りましたわ。きちんとお話しすればきちんと分かってくださいますわね」 清花がそう言った瞬間、理香、しほり、星奈は天を仰ぎ、机と椅子が大きな音をたてて動いたり、倒れたりする音が教室中に木霊した。その直後にクラスメートの安藤瑛人(あんとうあきひと)井上護(いのうえまもる)が「おい白原ぁ! 源川さん彼氏いるって本当かあ!?」と叫んだのは聞こえなかったことにした。 部活の勧誘期間は今週から既に始まっていたが、朝ヶ谷高校剣道部は月、水、金、土が活動日で木曜日の今日は休みだ。剣道部以外に興味の無い清花は早々に帰路を急いだ。理香は泉中学校時代と同じく陸上部、しほりと星奈は吹奏楽部の、それぞれ仮入部に行くと言っていたので一人だ。 今日の着物のコーデが決まったので足取りは軽かった。チューリップの柄が入ったものにしよう。(あわせ)やひとえの着物で無くても、帯でも良いからどこかにチューリップの花が描かれた着物を着よう。と私は張り切って桐箪笥を開けた。
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