二.チューリップ

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いつも逢瀬には日本古来の文様や織、花が描かれた人が着物と言われて頭に思い浮かべ、定義するような着物を着ている。舜一郎はいつもそれを褒めてくれ、清花はその度に頬に赤い花を咲かせるほど嬉しく思っているがここで初めて舜一郎はたまには「いつもと違う」と感嘆し、意外を突かれたいと思っているのではないかと思い当たった。二人の付き合いは二年と長い。そろそろ新しい一面を見せないと中弛みと倦怠が二人の空気を占めてしまうかもしれない。そこまで考え至って清花は気候とは関係の無い寒さを感じて身震いした。 とはいえ、舜一郎も古風な男性だ。自分だけ近代的(モダン)意匠(デザイン)ではお互い調和しない。次の逢瀬の前に連絡して「こんな着物を着ようと思う」旨を伝えて舜一郎の意見を拝聴しよう。そこまで考えたら気分が晴れてきた。その分、早く会いたいという気持ちが心の中を満たし、頭と身体が舜一郎の記憶を回想した。胸がきゅうきゅうと締め付けられる音をたてた。
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