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社内
───綺麗な人だ。
ありきたりだけど、彼女への第一印象はそれだった。
時計が9時をさすと、オフィスは途端にけたたましくなる。
「矢島、人数分の資料揃ってる?」
課長がPC越しに声をかけてきた。
「はい、揃ってます」
「じゃあ、先に行って準備しといてくれ」
「はい」
僕は経理課をちらりと横目で見ながら、打合せブースへ急いでいた。ふと、後ろから肩が叩かれる。
「矢島、今日さ、同期で飲み行くってよ。行く?」
振り向くと、同期の楷八木が笑みを浮かべて僕の隣に並んだ。
「ん、あぁ、そうなの?」
楷八木は、もう社会人二年目となるのに、まだ学生気分が抜けていない。緩いパーマを残し、先輩たちにはそのまんまチャラというあだ名をつけられている。
急ぎ足の僕を楷八木はしつこく追ってきた。
「じゃあ、矢島は参加な。てか、さっき早坂さん見てた?」
横目に映る楷八木は笑みを浮かべている。
「見てないよ。楷八木、俺、会議なんだ。急いでる」
ぶっきらぼうに切り抜けたつもりなのに、楷八木の笑みは消えない。
「そういう時こそ男は本能が出んだよ。お前、早坂さんチラチラ見る癖あるの知ってる。でもな、やめとけ。ありゃ無理だ」
鬱陶しい。そう思いつつ気になってしまうのが悔しい。
「……何でだよ?」
「ふふ、素直な矢島ちゃん。あれはな、心が凍ってしまってるな。無理だ」
ぽーんと背中を叩いて、楷八木は同期の女の子へと寄っていってしまった。
頬を叩く。大事な会議だ。しっかりしなきゃ。そう気合いを入れ直す。それでも、楷八木の言葉が気になった証拠だろうか。資料を慎重に並べようとしても、手元はおぼつかなかった。
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