お試し期間から始めるラブストーリー

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「……家具。何もかも嫌になっちゃって、ほとんど全部捨てちゃった。新しいの、買いに行ってもいい?」 「勿論だ。ユトリにでも、行ってみるか?」 「私。男の人、ちょっとだけ怖くなってる。トラウマになってる……かも」  それも、当たり前のことだ。 「あ、ごめん。抱き締めたりして、悪かった」 「あ、ううん。それは大丈夫」  不快な気持ちはまるでしないけれど、密着が解かれた。 「お前がいいって言うまで、何もしない」 「ありがと」  張りつめていた気持ちが緩んでいく。  佳菜子はやっと、本来の自分に戻れたような、そんな気がした。 「じゃ、決まりだな」 「うん」  交渉成立。 「おじさんとおばさんに挨拶しないとな。……って。一体、何て説明すりゃいいんだ?」 「付き合い始めた。で、いいよ。そういうことにして」  他人に、細かい事情を説明するのは面倒だ。この特殊な関係は、自分と彼だけが知っていれば、それでいい。  どのみち、遅かれ早かれ、彼ともっと親密に……一緒になるのだから。 「いいのか?」 「時間がたったら、私の方から改めてあなたに、お願いするから。お付き合いしてって。でも、今は……ごめん」  伝えるのは自分の役目だ。佳菜子はそう決めていた。 「わかった」  心と体の傷が癒えるまで。時間の問題だとわかっている。  それでも今は、あえて曖昧な関係でいさせてと、佳菜子は願った。 「帰るか。暗くなってきたし」 「うん」  二人は、来た道を戻っていく。 「ねえ光秀」 「何だ?」 「裏切らないでよ?」  佳菜子はじとーっとした、ちょっと半開きの眼差しで、光秀に釘を刺した。 「裏切らねぇよ。んなことしたら、おじさんとおばさんに袋叩きにされちまうよ。娘になにするんだって」 「そして村八分、と」 「勘弁してくれ」  軽口をたたき合いながら、二人は笑顔。  ――お試し期間からの、リスタート。  今度はきっと楽しくて、幸せな日々になるんじゃないかなと、二人は揃って思うのだった。
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