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「覚えてたなら言ってくれればいいのに」
「悪い、悪い」
「私の落としたパスポートを拾ってくれて、声をかけてくれた。初めて見た時、ビビッと来たの。ああ、運命の人だって。大河くんの目が、声が、雰囲気が。全部この人だって分かったの」
「その後、月乃が食事しようって言うから驚いたよ」
「三回目でようやくご飯に行ってくれたね」
俺たちは歩き続けた。月乃は最近、ヒールではなくフラットな靴を履いている。今日もそうだ。あと変化したことといえば以前より多く愛してる、と囁くようになったことだ。
「ねぇ、私をここから連れ出して」
彼女にそう言われたのが先月。カフェでのことだった。
「それって……駆け落ち?」
コクン、と月乃は頷いた。
「夏に言ったでしょう許婚ができたって。その人と結婚させられそうなの」
「そんな」
「ねえ、逃げよう?」
一瞬ためらい、俺は彼女の手を握った。
「来月の二十五日、四時前。勝手口で待っていてくれ」
「待ってる」
温かい手のひらを握り返し月乃は答えた。
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