1人が本棚に入れています
本棚に追加
「月乃の部屋に行ってみたらこんな書き置きがあってな。家内が見つけたんだ」
応接間に通され、運転手から温かい紅茶を出された。お父さんは緑茶のようだ、なんてどうでもいいことを思った。
「待ってください。そもそも、どうして夜明け前に部屋へ? まるで駆け落ちするのが分かっていたかのようじゃないですか」
「落ち着きたまえ」
緑茶をひと啜りし、言葉を続けた。
「確かに君との交際に反対していた。本来ならこの家の敷居も跨がせたくはなかった。けれどこれは娘の不始末。まあ、先にそれを読みなさい。話は後だ」
俺は机の上に置かれた置き手紙を手に取った。それは前もって書いてあったのだろう。月乃らしい丁寧な字で書かれているそれを読んだ。
お父さま、お母さま
私の親不孝をお許しください。私は坂口大河さんとここを出ることに決めました。大河さんには私の病気の事は話していません。私の病状が悪化すればすぐに大河さんはこちらへ連絡を取るでしょう。束の間の我儘だと思い、目を瞑って下さい。
大河さんは何も知りません。私に許婚がいると言って彼に連れ出してもらいます。だから大河さんを責めないで下さい。
全ては私が悪いのです。人生最後の我儘に付き合って下さい。
月乃
最初のコメントを投稿しよう!