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「月乃が、病気?」
手紙を持つ手が震える。
「月乃は今年の夏頃から病気になってね。……難しい病気だ。身体が弱って、記憶も徐々にあやふやになり最終的には寝たきりになる。家内は心配性でね。気になるらしく深夜でも部屋を覗いていたんだ」
「嘘だ!」
俺は立ち上がった。けれどお父さんの瞳を見て全てを察した。
「嘘、だ」
緑茶を啜る音だけが響く。
「坂口くん、家に帰りなさい。うちのに送らせよう」
「月乃さんに会うことは出来ませんか?」
「会ってどうする。また駆け落ちごっこか? お前が連れ去ってもあの子は近い将来、介護が必要になるんだ。お前にそんな金はあるのか?」
俺は唇を噛んだ。
お父さんは険しい顔でこちらを眺めると、一つため息をついた。
「これを最後にするなら許す」
俺は少し考え、お辞儀をすると月乃の部屋へ向かった。
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