Selfish moonlight

8/13
前へ
/13ページ
次へ
「月乃が、病気?」  手紙を持つ手が震える。 「月乃は今年の夏頃から病気になってね。……難しい病気だ。身体が弱って、記憶も徐々にあやふやになり最終的には寝たきりになる。家内は心配性でね。気になるらしく深夜でも部屋を覗いていたんだ」 「嘘だ!」  俺は立ち上がった。けれどお父さんの瞳を見て全てを察した。 「嘘、だ」  緑茶を啜る音だけが響く。 「坂口くん、家に帰りなさい。うちのに送らせよう」 「月乃さんに会うことは出来ませんか?」 「会ってどうする。また駆け落ちごっこか? お前が連れ去ってもあの子は近い将来、介護が必要になるんだ。お前にそんな金はあるのか?」  俺は唇を噛んだ。  お父さんは険しい顔でこちらを眺めると、一つため息をついた。 「これを最後にするなら許す」  俺は少し考え、お辞儀をすると月乃の部屋へ向かった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加