Selfish moonlight

9/13
前へ
/13ページ
次へ
 ノックをするとお母さんが顔を出した。 「すみません、月乃さんの具合はどうですか」 「今起きた所」  そしてちらりと後ろを振り返った。そこに彼女が寝ているのだろう。 「いいわ。入って」  俺は月乃の部屋に入った。豪華な壁紙、重厚な家具。天蓋付きのベッドに彼女は居た。 「調子はどうだ」  月乃は平気、と言って少し黙った。沈黙が訪れ時計の針が聞こえ始めた頃、彼女は形の良い唇を開いた。 「手紙、読んだ?」 「本当か、あの内容は」  コクリ、と頷いた。 「どうして、騙してたのか。俺は、人生全部捨てようとしたのに。月乃は初めから帰るつもりだったってことか」 「ごめんなさい、大河くん」 「なんとか言ってくれよ」 「ごめんなさい」 「なあ」 「ごめんなさい」  それから月乃はごめんなさいとしか言わなかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加