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満月が輝き、向こうの空が明るく頃。俺たちは電気の消された勝手口に居た。目の前にいる彼女はとても綺麗だった。
「月乃、迎えに来た」
俺は月乃の手を握った。微かな明かりでも彼女の頬が上気するのが分かった。
「俺、金は持っていないし、仕事だってちゃんとしていない。でも、月乃と一緒にいたいんだ。それに、意に沿わない結婚なんか認めない。だからここから逃げ出そう」
月乃は手を握り返した。
「ありがとう、大河くん。私、とっても幸せ」
そう言って月乃は俺に抱きついた。
抱きしめる温もりが互いを安心させる。
彼女はふわりと離れた。
「待ってて、荷物取ってくるね」
そう囁くと懐中電灯の明かりを頼りに部屋の奥へと向かった。
俺はこの一世一代の大勝負の緊張から、側の木にもたれた。そしてリュックの中身を確認する。
ありったけの現金が入った財布、百万貯めた通帳、1万円分のチャージをした交通カード、着替え。
家の荷物は処分した。バイトは辞めた。友達とはもう連絡を取ることはできないだろう。家族とは元々疎遠だ。
それだけでいいんだ。月乃さえいれば。二人で居られるならそれでいい。
「大河くん、準備できたよ」
その声に顔を上げる。
月乃は青のストライプのワンピースを着てリュックを背負っていた。
「そのワンピース……」
「大河くんが始めてくれたプレゼント。一番のお気に入りの服なの」
そして月乃は微笑んだ。
「行こう?」
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