22人が本棚に入れています
本棚に追加
「咲〜、……って、あれ?」
和室の襖を開けて、ゆっくりと咲の叔母は入ってきた。呼びかけても、返事がない。
「咲?」
自分の姪である咲は、昔使っていた勉強机の上で顔を伏せていた。ふたの開いた缶の中にある一冊のノートを枕にしながら。
叔母はゆっくりと咲に近づいてみた。
「……なんだ、ぐっすり寝てるのか」
手をのばし、肩をたたいて起こそうとした。こんな寝方をしては風邪を引いてしまう。
しかし、その手は思わず止まった。咲は、すやすやと寝息を立てて、深い眠りについているのだ。しかも閉ざされたまぶたからは涙のようなものが、目尻からもれだしている。……泣いているのだろうか。それにしては、表情は少したくましくなったように見える。
「咲ったら、いったいどんな夢を見ているのかしら」
叔母はそう言って、咲の背中に、自分の着ていた上着をそっとかけてやった。
了
最初のコメントを投稿しよう!