マインド・メッセージ

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 落ち着きのある声で発せられたこの言葉。初めてリテラは相手の目を見上げた。 「助けてくれて、ありがとう」  すこしの間リテラは相手のほほ笑んだ顔をぼんやり見つめていた。  しかし、また目を慌ててそらしてしまう。 「……よかった」  すると家の反対側から、「母さん、母さん!」と男の子の声がした。その声を聞くとリテラは咲の手首を掴んで急に走り出した。  北の通りへ、風のように駆け抜ける。 「リテラ、リテラ!」  リテラは咲の何度かの呼びかけで、ようやく足を止めてくれたようだった。 「リテラ、ありがとうって言われたじゃん。よかったね」 「あの人に感謝されたことなんて一度もなかった」 「もう少しで危なかったもんね」 「うん……」  リテラは首を垂らし小さな声でつぶやいた。 「……よかったのかな」 「なにが?」  リテラは顔をうつむけて、栗色の髪で目を隠していた。 「私が町の人の前で魔法使っても」  ゴクリ、と咲は思わず息をのんだ。 「よかったと思うよ」出てきたのは、とても単純に思われるものだった。 「ほ、本当に?」 「だってリテラ、町の人を助けたんだからさ。とてもいいことをしたんだよ」  リテラは顔を上げた。 「そ、そうなのかな?」  笑顔でうなずく。 「そうだよ」  すると、にこっと、リテラの顔に笑顔が戻ってきた。 「よかった」  不安の中から外に抜け出たように、その笑みは晴れやかだった。 「サキちゃん、北門に急ごう」  そして小さな声でつけ足した。 「町とみんなを助けなきゃ」  咲は大きくうなずいた。 「そうだね。急ごうか」  北に向かって走り出した。目指すは北門。近づくにつれ、異民族の数が増えていく。家が壊れているし、その壁にもたれかかって傷ついた町人が休んでいる。  北の壁から、異民族が、町の中へロープで降りるのが、確認できるようになるくらいまで近づいた。
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