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リテラは常に両手を広げて走っていた。異民族が襲いかかってくるのを破壊魔法で撃退するためだ。破壊するものはリテラの心の中で決めている。
「おい! やめてくれって!」
走っていると、近くで男性の声がした。
男性は刃物を突きつける黒髪の男に叫ぶ。ちょうどリテラたちの前で狙われている。
「あっまただ!」
リテラは急に足を止めた。両手を前に出した。目を細めて、狙いを定める。
「勘弁してくれって!」
声を裏返した男性はついにしりもちをついた。両手を顔の前に出して、相手を制止しようとする。
しかし異民族にはそんなジェスチャーさえ通じない。男は持っていた刃物を振り上げた。
その時、音がして、緑の煙が見えて、刃物が鉄の粉と化した。振り下ろされた時には刃の部分はなくなっていた。
「ん? 一体何なんだ?」
異民族の男も異変に気がついてその手をひっこめた。硬い鉄の刃はどこにいったのかと辺りを見回す。ちょうどキラキラ輝く風が吹いた。
リテラが両手を構えているのを、異民族の男は目にした。
まだ子どもの女の子が目つきを鋭くして、男を真っ直ぐにらみつけている。
異民族の男はしばらくリテラの目から離せなかった。そのまま、ゆっくりと、後ずさった。そして、さっと怯える目を背けると、全速力で北方向へ走り逃げていった。
「……ああ、君か」
男性もリテラに気がついていた。
「助けてくれたんだな」
男性はよろよろ立ち上がって、リテラのほうへ歩み寄った。
「助けてくれて、ありがとう。確か、リテラちゃんだな?」
「……大丈夫?」
リテラは、今度は下を向かずに男性の目を努めて見ていた。しかしその声は小さく、かすかに震えている。
「ああ、大丈夫だよ」
「……よかった」
男性はリテラにさらに近づく。
「まさか鉄の刃物を砕くとはな……」
そう言いながら男性は地面に指先を当てて何かを拾い上げた。風に流された鉄の粉だ。
「すごいな」
「びっくりさせて、ごめんなさい!」
突然リテラはなにかに駆られたように男性の目の前で頭を下げた。
「えっ」
思わずとまどいを見せる。
すると、男性は、リテラの頭に優しいほほえみで大きな右手をポンッと乗せた。
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