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「何言ってるんだよ。謝ることなんてないぞ」
リテラは下を向いたまま、涙をみせる。
「危ないところを助けてくれたんだから。『救世主』だな」
ようやく顔を上げた。リテラの目は赤く、目下はすでに腫れていた。
「なんで泣いてるんだよ」
「だって……」
「『破壊王』なんて言って、ごめんな」
男性はリテラの頭を軽くポンポンとたたいた。
「おじさん……」
リテラは袖で赤い目をこする。
「ただな、リテラちゃん」
男性は指に付いたままの鉄粉に目を落とした。
「今、町に材料が不足しているんだ。もしできるなら、相手の刃物についている刃だけをへし折ってくれないか? 形が残っていれば、新たに武器がつくれるんだ」
「わかった。これからそうするね」
リテラの返事を聞いて、嬉しそうに笑った。
「ああ、そうしてくれるともっとありがたいな」
「うん!」リテラは元気よくうなずく。
北門の方角を見て、リテラの足が動き出した。
「じゃあ、もう行くね」
「気をつけるんだぞ」
リテラが走り出したので、咲も後に続いた。
「リテラちゃん!」
男性が背後からリテラの名を呼ぶ。リテラは自分を呼ぶ声を聞いて立ち止まり振り返った。
「この町を君の力で助けてくれ」
男性のこの声に、リテラは笑顔でうなずいた。そしてすぐに走り出した。大股で、全速力で、商店街を走り抜けた。咲は男性が手を振って送り出すのを見た。
「リテラ、よかったね」
「うん……それより、北門に行かなきゃ!」
リテラの足は北に向き続ける。一方で手は左右に向き、異民族の刃物を根元から折った。町人はそれを見つけると、新たに鋭い武器を作り出して、異民族に反撃を開始した。あの男性が言っていたように、作成魔法で再生させるのだ。町人たちは通りすぎるリテラに、刃物を壊してくれと頼むようになる。刃物が折れると異民族は困惑するだけでなく、返り討ちにまであった。
「ありがとう!」と声を背中に受けて、リテラは北門に急いだ。
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