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木製の巨大な門が見えてきた。基本は薄茶色の木板を使っているようだが、異民族の侵入を防ぐために、多くの量を継ぎ足したのだろう。色も形も整えられていなかった。
なおも、そびえ立つ城壁から異民族はロープで降りてきて、ある程度降りると飛び降りて町に侵入してくる。それで骨折などのけがはせず、何事もなく立ち上がる。
「うわぁ、この辺りから流れこんでくるのか」
少し離れた場所で町人は異民族に応戦していた。二人が息を整え、ようやく落ち着いてくると、カキン、カキンという金属のぶつかる音があちらこちらで聞こえた。
リテラは壁から降りてくる男たちから目を離そうとしない。
飛び降りた敵は町の中へ直進してくる。
この場所は想像以上に危険だった。咲は、リテラの隣にぴたりと体を寄せた。この子の近くにいれば大丈夫……そんな気がするのだ。
リテラは目を動かさなかった。
町を守るはずのそびえたつ城壁は、もはや異民族を食い止めきれていない。
「リテラ? 大丈夫? 呆然としてるけど……」
思わず咲はリテラの横顔をのぞいた。それもそうか、と思った。
「うん……」
自信のなさそうな、消え入りそうな声。咲に目を向けない。向ける余裕はない。
「これじゃあ町にどんどん入ってきちゃう……」
のどの奥のかすれ声で小さくつぶやいた。二人が話をしている間にも大勢の男が壁の頂上につき、数人がロープで町に入ってきた。高さにためらう異民族もいるが、隣に勇敢な人物がいると、同じようにして意を決したように降りてきた。
「このままじゃ……町が……」
「リテラ!」
二人の後ろから聞き覚えのある声がした。
声がすると、すぐにリテラは反応して振り返った。
「お父さん!」
リテラの父親は腕まくりをしていた。白いシャツは汗でぐっしょりぬれていて、額にも大粒の汗が付いている。……幸いなことに、目立ったけがはないようだ。
「サキちゃんも。二人とも、無事だったか。けがはないか?」
「はい!」
「お父さんは? 大丈夫? ずっとここにいたの?」
リテラは父親の足先から頭の頂点まで目を何度も動かした。
「お父さんは無事だよ。サキちゃんと広場でわかれて、ずっとここで壁の前で戦っているんだ。」
父親は続けた。
「それにいくら壁が高くても、あいつら、入って来るんだろうな」
一度父親は言葉を切った。息を遠くに吐きだした。
「迷いなくな」
リテラの父は町を守ってくれるはずの北の壁をながめた。
「あいつらは、どんな高い壁でも超えてくる」
リテラも同じように眺めなおした。目は前に向き、耳は他の様子を聞いている。聞き慣れない金属同士のぶつかりあう音、お互いの悲鳴、走りぬける靴の音……。いつもの平和な町ではなくなっている。
「何か、手立てはないの?」リテラの口からポツリと小さくもれた。
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