マインド・メッセージ

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 その言葉を、父親の耳は聞き逃さなかった。口元をあげ、少し余裕そうな顔になり、娘の肩に自分の大きな手を優しくのせた。 「町を、助けたいのか?」 「だって……」  リテラは言葉に詰まって、それ以降出せない。 「……放っておくなんて、できないよ」 「……やっぱりか」  ポンッと、肩を父の手は優しくたたいた。鼻でふふっとひとりでに笑った。そして、壁に降りて来る異民族から目を離し、娘の横顔を見つめた。 「リテラ、本当はこの町のこと……」  リテラは父親の顔を見ようと首を上げる。 「大好き、なんだろ?」  一息おく。 「……いくら町の人たちに避けられて、嫌われても」  リテラが息をのんだのが、咲には見えた。  そしてゆっくりと、今度はリテラのほうが口を開いた。 「お父さん……」  父親をじっと見つめるその瞳には、すでに涙が溜まっている。 「やっぱり私、この町を助けたいの……」  リテラは鼻をすすって、続ける。 「本当は、町の人たちと……みんなと仲良く暮らしたいの!」  力強かった。その声は、父の耳にも咲の耳にも、そしてリテラ自身の耳にも響いてきた。  にこっと、父親は娘に思わずほほえみかけた。 「それがリテラの本当の気持ちなのか?」 「うん」  リテラの父親はゆっくりと息を吐きながらまた前を見据えた。  壁から異民族が飛び降りてくる。壁の頂上にはまだ多数の男が侵入を試みている。壁の手前では、男性も女性も異民族を撃退しようと戦っている。 「実はな……リテラに頼みがあるんだ」  なに? とリテラは父親に目で訴えた。 「リテラにしかできないことなんだ」 「私にしかできないこと? なぁに?」  するとリテラの父親は、左の人差し指で大昔から町を囲う壁を指さした。見上げようとすると首も痛くなるような巨大なレンガの塊だ。そこから異民族がロープを使って入ってくる。 「トスカ町の城壁を……壊してほしいんだ。粉々にな」  父親の声は太く、力強かった。
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