22人が本棚に入れています
本棚に追加
「リテラ? ああ、よかった! 昨日からずっと気がつかなかったから心配したよ」
リテラのベッドのそばにいる咲が言うとリテラはほんの少し開いたまぶたを、めいっぱい広げた。
「あれ? サキちゃん? え、私どうしていたの? 異民族は? 町は?」
すっかりリテラの疲れは取れたようだった。これもお母さんがつくった薬のおかげ。
「北方の異民族なら、外の草原を走って、逃げていったよ。もう異民族は撤退した」
「サキちゃん、それ本当? 本当? 町は……救われたの?」
それを聞いた咲は、首を大きく縦にふる。
「もうこの町には怯えて、来ないと思うよ」
あんなにそびえたつように高い壁が全部崩れていった。それを見ていた異民族の顔が蘇ってくる。壁が壊れたことで放心状態になった者がいたり、一度町に入った者は北に逃げていったり。あのあと町で起きたことをリテラに教えてあげた。
「つまり、町は救われたよ。リテラのおかげね」
部屋の扉があいた。お母さんが入ってきた。
「リテラ! 目が覚めたのね!」
嬉しそうな声に足音が速くなる。
「大丈夫? 昨日から気を失ってたのよ」
魔法の力がつよく、魔力を使いすぎたから倒れたのだと、リテラの父は言っていた。ましてリテラは一度に多くの魔力を使うことが今までになかったから、その反動なんだろうとも言っていた。
「そうだったんだ。魔法使って壁が崩れたことはわかったけど、そのあとどうなったかわかんない。町と町の人たちはどうなったの?」
リテラの質問は町のことや町人のことばかり。自分がどうなったのかは二の次になっていた。
はやく外の様子を見せてあげたい。きっととても喜ぶだろう。咲は心の中でそう思った。
「そういえばお父さんは?」
「お父さんなら、建物の修復にいったよ。リテラのこと、すごく心配してた」
「じゃあさ、みんなでお父さんに会いに行こうよ」
ベッドの中のリテラは起き上がろうとする。それをお母さんは止めた。
「まだ寝ていた方がいいんじゃない? あんた、気を失っていたのよ?」
「もう大丈夫だよ。それに町がどうなったのか知りたい」
リテラの強い思いに、三人で出かけることになった。
リテラは、なにやらバスケットを持って。
「まずはお父さんに会いに行かないとね。だったら広場かしら」
リテラは外へでるなり、町の様子を見ている。町は修復作業に大忙しだった。しかし、町の人たちはリテラに気がつくと、「リテラちゃんだ!」と声をあげていた。それをリテラは「えっ」と漏らしながらぺこりと頭を下げる。その顔はこわばっていた。家を出てからたどり着くのに、何度も町人から元気の良いあいさつをされたり、「昨日はありがとう」とお礼を言われたりしたことが何度あっただろう。
広場には大勢の人が集まっていた。広場に入るその前で足を止めるリテラ。その顔には不安が現れている。町に出れば冷たい視線を浴びることになることが蘇ってきたのだ。
広場の大人たちは建物や地面を修復中だったが、リテラに気がつくと……。
「リテラちゃん! 目を覚ましたのね!」「よかった、無事だったんだな」
そんな声ばかり。
「リテラちゃん、異民族を撃退してくれてありがとう」「ありがとう!」
おそらくリテラの考えていた光景ではなかったのだろう。きっと広場にいる大人たちが、リテラのことを非難するだろう……今まで、ずっとそうだったから。
「他の町にリテラちゃんのような子はいないって話だけどな」
「異民族のやつら、恐ろしくて逃げていったよな」
広場には、そしてリテラの前には、作業を止めてたくさんの人が集まってきていた。
「いったい……」
リテラの想像とはやっぱり違うみたい。町の人たちは、リテラに笑顔をみせてくれる。そこに冷たい視線も非難の声も一切なかった。そのかわりにどこからでも聞こえた言葉。それは「町を救ってくれて、ありがとう」という言葉だった。咲もリテラの母も、それを聞いて顔を綻ばせる。一番キョトンとしていたのは言うまでもなくリテラだった。
最初のコメントを投稿しよう!