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「おお、リテラ!」
町の人たちをかき分けながらリテラの父が広場にやってきて、三人をむかえた。
「お父さん!」
リテラは父の顔を見ると、それまでどんな表情をしていればいいのかわからない迷いのある顔が、一瞬で晴れあがった。
「目を覚ましたんだな、よかったよかった。心配だったぞ」
「お父さん、差し入れ持ってきたよ」
そう言ってリテラは、片手に持っていた大きなバスケットを見せた。ふたを開けた瞬間に、甘い香りがふわりと漂った。
「昨日のクッキーていうお菓子か。ありがとう」
バスケットの中のクッキーはまだ十枚以上残っている。
「今日リテラは町の中を歩いてきたのかい?」
「うん……そうだね。いつもと違って驚いたけど」
父親がリテラの名を呼んだ時に、他の大人たちも反応して、リテラの周りに集まってくるのを咲は見ていた。リテラを一目でも見ようと急いで集まった。
「リテラちゃん」
リテラを呼んだのは一人の男性だった。父親の隣にいる、同年代くらいの人だった。
「リテラちゃん、昨日言い忘れていたよな。町を救ってくれて、本当にありがとう」
男性は頭を下げる。それに続いて周りの大人たちも「ありがとう」と言って頭を下げた。人から人へ連鎖した。しまいにはみんなリテラに礼をしていた。
「まさか、リテラちゃんの破壊魔法で町が守られるなんて、考えもしなかった」
「壊れそうにない壁が崩れることで、異民族のやつら、すごくビビってたよ」
大人たちはリテラに向けて、それぞれの感想を述べる。
「きっとリテラちゃんがいなかったら、町は異民族にのっとられていたかもしれないわ」
「ありがとうな。君のおかげだよ」
二度もリテラは頭を下げられる。
「……みんな……?」
「それにしても、今までは……ごめんな」
一人の男性がつぶやいた。それを耳にした多くの町人たちが口をつぐむ。
「『壊す』っていう、他の人たちとは違う力を持っているから……避けてたよな」
「私たち、ずいぶんひどいことをあなたにしていたよね」
始めの男性にうなずきながら、他の人がどんどんつなげていく。
「うん、おれも含め、ひどいことをしていたな。ごめんな」
「本当に、ごめんなさい」
町人たちの言葉を聞いたリテラの返事は、人々の予想を大きく外れた。てっきり怒りをぶつけてくるのかと思っていたからだ。
「仕方ないよ。私の魔法はみんなと全然違うんだもん。大きな音をたてるし、粉々に崩れるし、怖がられて当然だよ」
だれの顔も見ないでうつむいていた。そんなリテラの頭を、リテラの父親は大きな手でよしよしとなでた。
「リテラちゃん、本当に今までごめんな」
「もうこれからは仲間外れにはしないよ」
「うん……」
リテラの返事には、本当かなぁと疑いを含んでいるようである。それを父親が肩をたたいて励ました。
「大丈夫だよ」
すると人々の後ろで声がした。
「リテラ、リテラ!」
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