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男……男の子の声だ。何度も叫んでいるが、大人たちにもまれて姿が見えない。
人々が道をあけて、ようやく一人の女性と男の子がリテラの前に出てきた。咲は心の中で「あっ」と叫んだ。この前出会ったシュウとその母親だった。
「リテラ」
シュウはリテラを見つけて、もう一度呼んだ。
「……あれ、シュウ」
シュウの必死そうな目は、リテラの顔を見るととっさに沈んでしまった。口を閉ざし、しばらく何も言ってこなかった。だが、何かを言いたそう。
「……あのさ」
小さく消え入りそうな声を絞りだす。
「リテラ、今まで……ごめんな」
「え?」
「昨日、おれの母さんを助けてくれたんだってな。……ありがとう」
「シュウ……」
「リテラがこの町を助けてくれるなんて、思ってなかった。リテラはこの町がきらいで、町の人間を恨んでるんじゃないかってずっと思ってた。……違ったんだな」
シュウの静かな言葉に、リテラは首を横に振った。
「うん、違うよ」はっきりした口調だ。
「私、この町も、この町の人たちも、本当はみんな大好きだよ!」
にこっと、リテラは笑った。太陽のように明るい笑顔だった。
「リテラ……」
弱々しい声でシュウはつぶやいた。
「リテラちゃん」「そうだったんだな」「本当にありがとう、リテラちゃん」
周りの大人たちに笑顔が溢れていった。リテラの笑顔に連鎖するように。
「なら、これからは、リテラもこの町の『仲間』だな」
「そうだね」「その通りだ」
「え、本当に? ……いいの?」
シュウに続いてその場全員の人間が大きくうなずく。笑顔が輪になってひろがっていった。温かい視線が、リテラ一人にそそがれた。
「みんな……ありがとう……」
そんなリテラの目には、自然と涙があふれていた。袖で涙を拭って、また笑顔の花を咲かせた。
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