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「あっそうだ! このクッキーっていうお菓子、食べて! とってもおいしいんだよ!」
バスケットのふたを開け、リテラはシュウと大人たちの前に差し出した。大人たちは不思議そうに中をのぞきこみ、「これはなんだ?」と言いながらそっと一つ取り出した。
「数……少ないよね?」
一人の女性がリテラに尋ねる。周りを見渡すと、とても充分ではない。
「うん、十個くらいしかないよ」
「それなら、半分に割ればいい」
女性の隣に立っていた男性は、持っていた一枚のクッキーを半分に割って、もう半分をその隣の男性の手に渡した。
「それでも足りないなら、また割ればいいさ」
「なるほど、それがいいわね」
こうして一枚のクッキーが割られ、二人分に、四人分にと分けられていった。
小さくてもクッキーの味は人々に衝撃を走らせたらしい。
「なんだ! この食べ物は!」
「う、うまい!」
「なんておいしいの!」
どうやら初めて口にするクッキーというお菓子は大好評だった。
「ほんとに? なら、また今度作ってくるね!」
「これ、リテラが作ったのか? ……すげぇな」
シュウは感心しながらしっかり味わって食べる。と、シュウはリテラに自分から近寄っていった。
「そうだリテラ。おれの家の荷車が、もうボロボロなんだ。修理するのも大変なくらいだから、いっそのこと新しいのを作ろうって父さんが言うんだ。今度、ボロボロの荷車を壊してくれないか?」
「え、壊しちゃっていいの? それなら……喜んで!」
嬉しそうにシュウに向かって笑う。
「なら、お願いな!」
二人の間には笑顔があふれていた。
「リテラ、咲ちゃん」父の声がした。
「北門はいったか? 今、壁と門を修復中だけど」
「まだ見てないよ。直すの……大変だよね」リテラは自分の壊した量を知っている。
「まあ、人は多いから心配いらないさ」
朝早くから家を出て、町の修理にあたっている。娘の壊したものは責任を持って直す。それが父親の心に根付いていた。
「手分けして協力すれば早いよな」と町の人たち。
「見に行くといいよ、面白い壁になってるから」
「面白い壁?」
「じゃあ、北門に行ってみよう」
人々の間を抜け、リテラの父を先頭に北門へとむかった。
父と母はリテラと咲についていった。そして、その後ろからも何人がついていった。「リテラちゃんどんな反応かな」と口々に囁きあっているのが聞こえる。そんなに変わったということか?
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