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北門や北の壁は一番修理されているところだった。特に壁は前の壁よりまだ随分低かった。時間をかけて直していくのだろう。
人々は両手を真っ直ぐ伸ばし、材料になるものを山のように並べ、手のひらを向ける。力が集まって、材料の山は白い光に包まれだした。その光は横に広がり、縦に伸び、しばらくして白い光は消えた。
今までは、壁の色はオレンジ、そして材料はレンガだけを使っていた。みんな同じレンガだったので、統一感が出ていた。
それが今となっては木や石などの様々な材料で作られた壁となっている。
オレンジ色の統一感ある壁だったものに、いろんな色が混ざりあう。
「オレンジ色の壁だったのに、なんかいろんな色が混ざってるね。石とか木とかもあるし、……なんだか面白いね!」
材料がないということもあったが、それより、いろんな材料を使ってもいいんじゃないかという考えが町人の中で一致したのだった。
この町の、『象徴』として。
リテラは笑いながら隣にいる咲をみた。
「ね? サキちゃん。……って、サキちゃん?」
そんな一見頼りなさそうな壁をみたとき、咲はなぜだか溢れる涙が止まらなかった。
統一感があり、異物を入れなかったレンガの壁よりも、石や木やさまざまな材料を含んだ壁の方が、よっぽど頑丈そうに咲には見えた。色もバラバラ、形もバラバラ。そっちの方がずっとこの町を守ってくれそうだ。
咲は返事をしようとしても、することができなかった。
「サキちゃん?」
リテラは咲の顔をじっと見つめる。あることに気がついたみたい。
「サキちゃん、どうして泣いているの?」
「だって……だって……」
知らず知らずのうちに、視界がぼやけてくる。
涙があふれてくる。
拭いても拭いても拭いきれない。
胸があつくなって目頭もあつくなって、いっこうに涙が止まらない。
咲の心が、優しくて温かいものに満たされていく。
五年間のうちに乾ききった心へと入りこんでいく。そんな感覚がする。
どうしてこんなにも涙が出てくるのだろう……。
「サキちゃん……ありがとう」
リテラが咲に向かって、にこっと笑った。
しかし、咲の目には、涙でその明るいはずの笑顔がうまく見えなかった。
目の前が、涙でいっぱいになっていった。
何度まばたきしても、それは変わらない。
リテラは、きっと優しく笑っているのだろう。
咲の前に広がっているはずの光景が、波打つようにゆらゆら揺れている。
「ありがとう……リテラ」
大切なことに気づかせてくれて、ありがとう。
そして、咲の目は、ゆっくりと静かに閉ざされた─
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