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「よし、これで大丈夫!」
咲が恐る恐る前に進むと、鉄格子がバラバラになっていた。独房にぽっかりと入口ができた。
「リテラ、ありがとう!」
「うん! ……まさか破壊魔法が役に立つと思わなかった」
いつまでたっても咲の両手が見えない。「あれっ」とつぶやいたリテラは咲の背中にまわりこんだ。
「サキちゃん、手錠までかけられてるじゃん!」
言う途中からバキバキバキッと音がして、鉄の破片が石の床に落ちた。手首に空気が当たり、両手は自由を取り戻した。手錠は鉄の塊にしか見えなくなった。
「助けに来てくれて、本当にありがとう。リテラ」
咲よりもリテラの方が嬉しそうだ。
「当たり前だよ」
にこにこと笑う。
「だって……私たち、友達でしょ?」
その言葉に、すなおな笑顔が溢れる。
「うん。……私が、異民族だとか言われても?」
「たとえ他の国からきた旅人さんでも、サキちゃんは悪いことなんてしないもん、絶対そんなことしない。信じてる」
「ありがとう、リテラ」
「なんか、照れるな。ありがとうって言われたこと、あんまりないから」
「あっそうだ」と、リテラは何かを思い出したように、服のポケットを探りだした。奥の方に入っていて、なかなか取り出せなさそうだ。咲はリテラのポケットをのぞきこもうとした。やがてポケットの中から小さな包みが抜き出された。
リテラはそっと包みを開いた。中には茶色くて丸いものが二つ入っている。丸いものを一つ取り出した。甘くて香ばしいこの匂いは、クッキーだ。
「はい、これ」
ゆっくりと咲の口元に持っていく。香ばしい匂いが鼻をさそう。口の中に吸い込まれた。
「どうかな? クッキーの焼き加減、勘でやったんだけど……」
「ふぉいすぃい」
『おいしい』と言ったつもりが、食べながら言ったのでうまく言えない。リテラは明るい声をあげて笑った。
「あははっ! おいしい? よかった。まだまだたっくさんあるの。帰ったら食べようね」
リテラはもう一つのクッキーを取り出した。今度は咲の手に渡し、咲は自分で口に運ぶ。と、急にリテラは振り返った。
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