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悲しき雨女
雨の降りしきる代々木上原の裏通りをキヨスクで買ったビニール傘をさして雨川紗織が歩いていた。そしてさっきまで乾いていたアスファルトに水が川のように流れているのを見て、あの台風の日を思い出した。
「雨女のせいじゃないの?」
小学校の遠足と運動会は私が入学してからずっと雨で中止。そして中学生の頃にスーパー台風がきて大雨になり、川が氾濫して付近の家が軒並み浸水した。
美しい故郷の風景が一瞬にして泥水に呑まれ、農作物は出荷不良になり、家の軒下は泥沼に変わった。
それから紗織は七回もの引っ越しを繰り返したが、その度に大雨が降り、洪水や土砂崩れなどの被害が続いた。つまり私が行くところへ悲しき悲運が空から降りかかる。
今は家族と離れて一人で東京の郊外のアパートに住み、吉祥寺のアンティークショップでひっそりと働き、空と人とは関わらないようにしている。
いつもなら折り畳み傘を持っているが、そんな自分が嫌になって今日は敢えて置いて来た。少し迷って「雫」という小料理屋の戸を開けると、玄関の傘入れにビニール傘を突っ込んだ。
「ごめんください。雨川と言います」
「ああ、紗織さんですね。皆さまお待ちしておりますよ」
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