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あの日から数日
引っ越し業者の方が荷物を運び終えた部屋で、私はツナ缶を開ける。料理は出来ないが缶詰位なら開けられる。
七十歳手前で新たな人生に成るとは思っていなかった。住み慣れたマンションを捨て、ペット可能なマンションだ。
布団に横になるも、いつもと違う為、なかなか寝付けずにいた。それでも歳の所為か引っ越しの疲れなのか、きちんと眠りについた。
五時になると目が覚める。
日課になっている散歩に私は向かう。
家を出て、直ぐに小さな公園があった。
「こんな所に公園があるんだな」
私は隣にいる妻に語り掛ける。
「そうですねぇ。ここならタロウちゃんの散歩に丁度いいかも知れませんね」
ふふと笑う妻は笑う。
「捨て犬に餌をあげてたなら私に言えば良かったのに」
幸せにすると心の中で呟いた。変わらない毎日をキミと過ごしていこう。今日も私は言葉を伝えられない。
リードを持つ妻の小さな左手を守るように優しく握った。
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