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五時になると目が覚める。
すうすうと寝息を立てる妻の顔を見る。私もそうだが、老けたなと思う。テレビで見る女優よりも美しかった姿は、今は無い。視線に気が付いたのか、どうしましたと皺の増えた顔がくしゃりと笑う。
昨日楽しかったかと尋ねる。
妻はええ、と頷いた。
行くか。
エレベーターで昨日一緒だったと言う、三階の何と言ったか忘れたが、同じマンションの人に昨日は楽しかったですねぇと妻は話しかけられる。四十代くらいの男性。独身で、両親の買ったこのマンションに同居しているのだったか、私は十六で家を出たぞと眉間に皺を寄せながら思う。今の親は子供に甘すぎる。
会釈をし、出て行く彼の背中を妻は切なげに見つめている。
貴方、そんな顔であの方を睨まないでくださいな。初七日が終わったばかりで大変なんですよと珍しく私を睨みつけた。
まるで、アイツの事を庇うような。
ああ、そうだったか。曖昧に返事をし、一言も会話無く散歩を終える。朝食の味がいつもより濃く感じる。モヤモヤとする。
新聞を読んでいても中々茶が出てこない。
茶はまだかと大きな声を上げてしまった。
私は、どうしてしまったのだろうか。ごめんなさいねと妻は茶を運んできた。この後お買いモノに行きますけど、一緒に行きますかと彼女は尋ねる。
普段であれば、一緒に行く。
カートや荷物を持つのは私の仕事だから。
時に買う米やペッドボトルを運ぶのは男の仕事だと、思っているのだが、どうも気が重い。
今日はいいと答えると彼女は心配そうに、ゼリーとか身体に優しいモノ買ってきますねと言い家を出て行った。
元同僚に電話をすると、さして迷わず答える。
ああ、それ男っすねと。
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