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夜に彼女は家を出る。
夜中、畳のきしむ音で目が覚める。私は寝たふりをしている。男らしくないと非難されても構わない。
薄目を開けて、耳を澄ませ、妻の動きを全身で探る。
トイレの扉が開く音が聞こえ、ほっと胸を撫でおろす。そこから十分程立っただろうか、彼女は戻ってこない。
まさか、
慌ててトイレに行くと、彼女の姿はソコに無かった。
玄関を飛び出し辺りを見渡すも、妻の姿は無い。急いでエレベータへ向かうと、エレベータは三階で止まっていた。
私はこみ上げる思いを耐えている。
妻は夜に毎晩家を出ていた。昼に買った筈のツナ缶や魚肉ソーセージが冷蔵庫から消えていた。大方予想は付いた。
三階に住む男の家に食事を作っていたのだろう。
ここの所良く食品を買いに行っていたのもそれが原因だ。そして、今朝の態度や情報から、あの男と浮気している事は間違いなかった。
しかし、それはやはり憶測なのだ。
そうでない事を祈る自分が居る。
凡そ五十年二人で共に生きていたのだから、まさか私に限って、我々に限って熟年離婚等有り得ないと思いたかった。
もし、そうだとしたら、きちんと聞かなければならないと思った。だから私は悔しい想いも、苛立つ想いも、拳を握りしめて心に押さえつけることにしたのだ。
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