30年前のプロポーズ

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 俺の母は、半年前に離婚したばかりだ。  父は、母に追い出されるように家を出ていった。俺を含め、子供達はすでに自立して実家を出ているので、母は今、大きな一戸建ての家でぽつんと一人暮らしをしている。 「せいせいする」なんて言っていたけれど、それでもやはり、一人きりになると寂しいのだろうか。最近、こうして母から突然のドライブや旅行に誘われることが増えた。  といっても、運転は当然のことのように息子任せ。母はいつも、助手席で不機嫌な女王様みたいに、ムスッとしながらふんぞり返ってるだけなんだけど。  まあ、これも親孝行だ。そういうつもりで、俺は母のワガママにもよく付き合っている。  俺はアクセルを踏んで、また緩やかに車を加速させた。 「しかし、お見合いして、お互いのこと深く知らないうちに結婚するんだもんなあ。そりゃ難しいところはあるだろうね」 「でも昔はそれが、今よりもっと普通のことだったのよ。25歳過ぎて独身は『売れ残り』だって後ろ指差される時代だったし、しょうがないでしょ?」 「ふーん。しょうがないから、結婚して子供も作ったの?」 「そうよ。『さっさと結婚して子供2〜3人生むのが当たり前』って世間の目があったんだから、しょうがないでしょ」 「ひっでえの。俺や姉貴は、しょうがなく生まれてきたのかよ……」  俺が憮然とした口調でぼやくと、母は自分の失言にようやく気が付いたらしい。少し気まずそうにトーンを落として、 「……だって、しょうがないじゃない」  と呟いた。
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