30年前のプロポーズ

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「母さんは、どうして父さんと結婚したの?」  ふと、そんなことを聞きたくなった。  母の誘いで二人きり、ドライブに繰り出してから3時間。高速道路を降りて、のどかな田舎町の県道を走っている時のことだ。 「どうしてって――」  突然の問いに、母が少々困ったように呟く。  俺は車のハンドルをしっかりと握り、フロントガラスを見つめたまま、助手席の気配を(うかが)った。  助手席に座る母が動く様子はない。きっと、こちらを振り返りもせずに、窓の外をぼんやりと眺め続けているんだろう。 「お見合い話があったからよ」 「いや、そうじゃなくてさ。俺が聞いてるのは、結婚の決め手とか、そういう話だよ」 「結婚の決め手? 東京生まれのサラリーマンで、持ち家もあったからかな。私も年齢的に、悠長に選んでる時間なかったし」 「いや、だからそういう話じゃなくて……例えば父さんの人間性とか、良いところとか……まあいいや、もう」  ピントが外れた答えの連続に、俺は呆れてため息をついた。  すると、俺の態度に腹を立てたのか、母は 「っていうか、せっかくのドライブデートなんだから、別れた亭主の話なんかしないでよね!」  と声を荒げ、俺の肩を拳で小突いた。  ブレーキを軽く踏み、「危ねえな」と助手席を睨む。  母は謝りもせずに、またプイッとそっぽを向いて言った。 「あー離婚してよかった! もうアイツの顔見なくて済むと思うと、せいせいするわ!」 「息子の前でそういうこと言うなよなぁ。俺にとっては、アナタ方はどちらも大切な親ですよ?」
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