花 の 雨

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今回の仕事は菓子メーカーの工場。 併設して見学・遊技施設も建設。 アラマシの図面は秀明と蓮司の 責任になるが、建設現場が 奈良県になることから なぎさもプロジェクトに 参加となった。 会社の車で向かった現場は 奈良市から遠くない桜井市・ “山の辺の道“として 『万葉集』愛好家の間では有名。 「名阪国道に近い場所だから  景観を損なうことはないし  何より二階堂さんの設計は  工場なのに無機質でないの  ですもの。市や国から  とやかく言われるような  ことはありませんわ」 なぎさの女性ならではの 穏やかな口調は、発注元の幹部達を 頷かせるに充分。もっとも 中年に届き始めた野郎の説明より 聞き手は、才色兼備の 女性から話を聞きたいものだから 秀明と蓮司は、後方で 様子伺いに徹していた。 春風が秀明を誘うので ついつい山桜に目が奪われる。 (これ見よがしに咲くのでなく  なんだか、風情がある) まるで休暇にいるような景色。 それは蓮司も同じらしい。 「終わったら、少し  歩いてみるか?」 秀明に囁いた。
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