花 の 雨

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予定通りに仕事は 4時には完了。 「報告があるので大阪支社へ  戻ります」 という営業部の数人と 「私も戻ります。少し手直したい  箇所もありますから」 なぎさは、車で帰った。 「駅まで歩いて夕焼けを  楽しもうか?」 秀明は蓮司と、男二人、 山の辺の道を歩き始めた。 日が長くなった暖かさが 背中を心地好く秀明を抱く。 何という名所があるではないが 所々で万葉集から厳選した 歌の説明がポツリポツリ。 平日であるにもかかわらず ハイキングの人もチラリホラリ。 「現場仕事のこういうあたりは  利点だなあ、思わぬ景色に逢う」 「そうだなあ、東京にはない  静けさがまたいいね」 相槌を入れた秀明の目に 小さな社と 「“茶屋“って感じだなあ」 古民家カフェがその脇に見えた。 「コーヒーでも飲むか?」 先に湯田が入っていくと、 「こりゃいい建物だ」 蓮司が感嘆の声をあげた。 「うん!この柱は大したもんだ」 黒く光った柱に触れながら 秀明も中へ進むと 「いらっしゃいませ」 柔らかな鈴の音の声、 つられて奥を覗きこむと、 微笑む美しい女性。 bb9603ba-0cae-49a7-a447-b66a14e8055b これが、二階堂秀明と 長峰柊子との出逢い。  
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