二度と会えない君に会いに行く

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マッチに一本火を灯す。僕の人生の中でこれほど何もかもから解放された感覚は初めてだ。視界に広がる積み上げられた書籍、もう1文字もこの目にする必要はない。女の身体も、金も、明日という絶望も、何もいらない。今は口に加えた煙草一本と、ワイングラスに注がれた葡萄香る1杯が贅沢すぎるほどだ。しばらく燃えるマッチを眺め、煙草に火を移す。紙の匂いと煙、ワインを口に含む。 「随分と待たせたな、もう少しだ、もう少しで会える。」 肺から煙とともに言葉を吐く。部屋に一人、誰にも聞こえるはずがないが、そんなことはどうだっていい。君はきっと聞いている。あれからずっと。何度会いたい会いたいと、声にならない言葉を押し殺したか。君がいない20年は長すぎた。写真を見ればすぐそこに今もいるような気がするんだ。 「なぁ、次のデートはどこに行きたい?もうすぐそっちへ行くからさ、昔みたいに…」 涙を抑えるなんてもう無理だ、もうカッコつけなくていいよな。ワインはいつもより苦く感じた。君の舌がうつったかな、なんて馬鹿みたいなこと言いながら、僕は写真の君と見つめ合うことしかできない。 もうこの世のすべてに価値はない、何もいらない。1秒でも早く君に触れないとどうにかなってしまいそうだ。君はこんなの許さないかもしれない、昔みたいに口聞いてくれなかったりするのかな。君の側に行ったら、キスがしたい、ハグがしたい、その髪に触れたい、小さな手をもう離したくない、だから。 「待っててね」 男はもう地に足をつくことはなかった。お幸せに。
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