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1 社長は魔女
北の街には不思議な店がある。
何が不思議かというとそれはいつも霧の中にあって行こうとしても辿りつけないからだ。
誰かが片目をつぶれば見えるとか、三度回れば良いとか、松明を振れば良いと言うが、誰も成功した事はない。
そんな店には仲良しの魔女のきょうだいが住んでいて、持ち主がいなくなった可哀想な品を格安で売っているという。
是非一度足をお運びいただきたいが、この店、実はゴーストがいると言うのでくれぐれも御注意を。
今宵、青い月夜に、君を待つ。
「この部屋ですが」
「失礼します……この荷物ですね」
2LDKの部屋の大量の荷物を前にそう話す彼女にオーナーは、心配そうに部屋を見渡した。
「突然の事だったんで。まさか本人もこんなことになるとは思ってなかったでしょうね」
「誰も自分が死ぬなんて思っていませんから。あの、この念書にサインを」
真凛はそう言って書類に判を押させた。
「ところで。お一人で作業をするんですか」
「いや。さすがに無理ですよ」
「そうですよね?アハハ。バカなこと聞きましたよ?」
そんな話をして彼を帰した後、彼女は1人で仕事を開始した。
「さあ。やるわよ」
「真凛。俺は家具を動かすよ」
「僕は冷蔵庫を見てみるね」
「頼んだわよ。さて、ジョー。そっちの部屋はどう」
「問題はない」
真凛は部下でゾンビのジョーに確認させていた。
魔女の真凛の経営する遺品整理屋は、彼女一人で仕事をしているように見えるが、実はゴースト達が行っており、ジョーは真凛の片腕をしていた。
「どう?」
「ああ。終わった」
彼らの活躍で荷物は一瞬で消えたので、彼女はいつものスーツケースを開き、ジョーをここに納め、部屋を出た。
そしてマンションの管理人に鍵を返した真凛は、車にスーツケースと、大事なホウキを乗せ発車させた。
「次はあのマンションか。懐かしいな」
そう言って真凛はホウキをしみじみ見つめ、ある夜を思い出していた。
それは真凛の会社の社長が借金のため突然消えてしまった時の事だった。
社員は皆辞めてしまったが、依頼が入っていたため彼女は1人で遺品整理をしに来た日のことだった。
「1人暮らしのおばあさんの部屋ですか」
「そうなんです。身寄りのない人で。死んだ時の契約をしてあったので、整理をお願いします」
この老婆の部屋を1人で荷物を整理していた彼女は古いホウキを見つけた。
……使いやすそうだな……
これが欲しいと思い手に取った瞬間、彼女は悲鳴を上げた。
「きゃあ?誰かいる?」
「あれ。僕らが見えるんですか」
「ハハハ。恥ずかしいな」
不思議な事に部屋にいる幽霊が彼女に見えるようになっていた。
「どういうこと?っていうか、多すぎじゃないの」
そんな中、老婆の幽霊が彼女の前に現れた。
「……私のホウキを継承する者よ」
「は?何ですって。おばあさん」
「だから!私のホウキを受け継ぐんだろう」
「何の話よ。訳わかんないし」
目の前ゴーストはこの部屋に住んでいた住人と話した。
「魔女のホウキを誰かに託す前に、うっかり死んじまってさ……。困っていたんだけど、ちょうどいいさ。お前にやるよ」
「要らないよ?お化けが見えるなんてキモいじゃん」
すると他のゴーストがひどいと嘆き出した。
「好きでゴーストになった訳じゃないし」
「そうだよ。お前だって死ぬんだぞ」
「マジで?」
これを笑った魔女は利用すれば良いと話した。
「そのホウキを持っている限りお前が魔女じゃ。よって、ゴーストも意のままよ」
「意のまま?じゃあ、みんな。この部屋を片付けてよ」
すると一瞬で部屋の中が空になった。
「え。どこにやったの?」
「清掃工場の窯の中じゃ。な?便利じゃろう?」
ひひひと笑う魔女のゴーストはすっと指し、黒い帽子を彼女に示した。
「それは捨てなかったよ。それを被ればパワーが増すからね」
「汚いなぁ……どれ?」
すると、声が聞こえて来た。
「なんなのこれ」
「動物の声さ。お前の力が増しているんだよ」
「悪口ばっかじゃん。要らないよこんなの!」
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