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同居人の誕生日は今日らしいけど、俺は今初めて知ったよ
バイトの就業時間を終えて盛山が一息吐いていると、スマートフォンにメッセージが届いていた。差出人は同居人の細川で、晩ご飯の買い出しに付いてきてほしいという内容だった。言われなくてもそのつもりだった盛山は、返事をする時間も惜しかったので足早に職場を出る。
自転車で五分もかからないうちに帰宅すると、細川が家を出る準備をしていた。
「おかえり、盛山」
「ただいま。俺も行くから、ちょっと待っててよ」
「ああ、メッセージ見てたのか」
「うん。元々付いてくつもりだったから」
貴重品類を肩掛けバッグに詰め替えて、盛山は再び外に出る。細川が微笑んで待っていた。向かう先は自宅から徒歩十分弱かかるスーパーだ。細川は自転車を持っていないので、盛山も自転車を置いて、細川と並んで歩く。
「ご飯、何作るかは決まってるのか?」
「寒くなってきたし、シチューにしようと思う」
「あー美味しそう。良いなあ」
細川と歩きながら他愛ない話をする。自宅で人目を気にせずに触れ合える時間もかけがえのないものだけれど、何気なく話をする時間も盛山は好きだ。
細川と盛山は先日お互いの想いを伝えあい、今はお付き合いをしている。けれど、まだ付き合ってから日が浅く、同じ家に住んでいることもあって、劇的に何かが変化したという実感は盛山にはない。変わったところといえば、ご飯の買い出しに同行するようになったことと、家の中でくっつく頻度が増えたことぐらいだった。
本当はもっと恋人らしいことがしたい、と思うこともある。
けれど、細川以外に誰かと付き合ったことなどない盛山は、具体的に何から始めていけばいいのか、どういう手順を踏めばいいのかが全く分からなかった。
相手のあることなので、自分一人で考える話ではないことは盛山も分かっている。どのような速度で、どのような内容で。それもカップルごとに違うと聞く。では、細川はどう思っているのだろう。盛山と何がしたいのか。盛山とどう過ごしていきたいのか。今日にでも聞いてみよう、と盛山は思っていた。
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