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中学に入った時に、ある少年を兄が拾って帰ってきた。
見た目はいいけれど、鋭い目つき。何やら訳あり、なのは分かる。ここに来る、拾われた者は大抵は訳あり。
少年は、山本健次郎と聞いた。何となく、拾われたからと兄の傍にいるようになったが……。
「お嬢様? どこへ?」
「関係ある?」
「若に言われたので」
「ふぅん……兄貴が言えば、アンタ、何でもやるの?」
「はい」
「じゃあ、兄貴が私を殺せって言ったら?」
「殺します」
「ははっ!!」
あの日以来、菜月お嬢様に何かと突っ掛かれる。どんどん痛いところを突く。
自分が見ないようにしてきた現実も。けれど、過去は聴かない。
「お嬢様は、俺の……過去は聴かないんですか?」
「聴いてどうするの?」
「えっ?!」
「聴いてどうなるの? って言ったの」
「いや……どうにも……」
「ならないよね? だから、聴かない」
そのときの、彼女の瞳。真っ直ぐで、俺から目を離さないで言った。あの日、俺に「どうにもならない。だから、聴かない」と言った彼女。
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