0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
Ranunculus
〝第8惑星〟が宵に沈む。此処、space station no.9には次々と角砂糖型の切符を携えた人々が別の銀河系に旅立って行く。
惑星から惑星へ、或いは衛星へ。沢山のヒトの、或いはソウジャナイ、の雑踏の中に、其処は在る。
《カフェテリア・コーヒーカップ》
ラナンキュラスの軽やかなドレスを纏った女給が有名で、ふわふわとまるで宙を舞い漂よう花弁だと、〝蔦と新緑の星〟の小説家が揶揄した程である。
店内の照明は総て〝第3惑星 母なる星〟から仕入れた螢石を使っていて、ラナンキュラスを惹き立てる様に、淡く仄かに明滅する仕掛けだ。
薄い絹を何枚も重ねた裾からは、きらきらと、螢石の燈りに反射して、何処までも透明な朝露が浮び連なる。
憧れのラナンキュラス、space station no.9に欠かせない存在に成れたと、そう云えるだろうか。此処に至る迄、何百年掛かっただろう、と。私は記憶を湯気の立つ中から香りだけを頼りに呼び起こす。甘い、花の香りと、香ばしい、珈琲の匂い。騒がしくも、踊る様なno.9での日々と記録。
本日のデ・セールは熱々のアプリコット・パイ。軽く焦がしたカリメラ・ソースをたっぷり垂らし、薄荷を乗せヴァニラ・アイスを添えて。76番テーブル様に。
其れ等をラナンキュラス達は滑らかな動きで給仕する。螢石の柔らかな光が店内を包み込んで。
「お待たせしました。」
零れ落ちんばかりに瞳を輝かせた少女へと、きっと、受け継がれてゆく。
了
実はラナンキュラス達のひとりは、精密な検査を通過した造花。
space station no.9の駅舎内に在る《カフェテリア・コーヒーカップ》で華々しく働くのを夢見て咲いた。惑星間を旅行中の裕福な家族、偶然居合わせた、特に末の少女を魅了する。少女は厳格な審査を通過し、花に成る事は出来るのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!