Ranunculus

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Ranunculus

 〝第8惑星〟が宵に沈む。此処、space station no.9には次々と角砂糖(キューブ)型の切符(チケ)を携えた人々が別の銀河系に旅立って行く。  惑星から惑星へ、或いは衛星へ。沢山のヒトの、或いはソウジャナイ、の雑踏の中に、其処は在る。 《カフェテリア・コーヒーカップ》  ラナンキュラスの軽やかなドレスを纏った女給が有名で、ふわふわとまるで宙を舞い漂よう花弁(はなびら)だと、〝蔦と新緑の星〟の小説家が揶揄した程である。  店内の照明は総て〝第3惑星 母なる星〟から仕入れた螢石を使っていて、ラナンキュラスを惹き立てる様に、淡く仄かに明滅する仕掛けだ。  薄い絹を何枚も重ねた裾からは、きらきらと、螢石の燈りに反射して、何処までも透明な朝露が浮び連なる。  憧れのラナンキュラス、space station no.9に欠かせない存在に成れたと、そう云えるだろうか。此処に至る迄、何百年掛かっただろう、と。私は記憶を湯気の立つ中から香りだけを頼りに呼び起こす。甘い、花の香りと、香ばしい、珈琲の匂い。騒がしくも、踊る様なno.9での日々と記録。  本日のデ・セールは熱々のアプリコット・パイ。軽く焦がしたカリメラ・ソースをたっぷり垂らし、薄荷(ミント)を乗せヴァニラ・アイスを添えて。76番テーブル様に。  其れ等をラナンキュラス(わたし)達は滑らかな動きで給仕する。螢石の柔らかな光が店内を包み込んで。 「お待たせしました。」  零れ落ちんばかりに瞳を輝かせた少女(あなた)へと、きっと、受け継がれてゆく。 了  実はラナンキュラス達のひとりは、精密な検査を通過した造花(アンドロイド)。  space station no.9の駅舎内に在る《カフェテリア・コーヒーカップ》で華々しく働くのを夢見て咲いた。惑星間を旅行中の裕福な家族、偶然居合わせた、特に末の少女を魅了する。少女は厳格な審査を通過し、(ラナンキュラス)に成る事は出来るのだろうか。
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