side. Azur

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side. Azur

 活気溢れる商店街通り。  忙しなく行き交う人々。  そこにひっそりと佇む一件の花屋さんの前で、私は思わず立ち止まる。 「あっ。見て見て。これ懐かしい。」 「お、アサガオじゃん。小学生の頃育てたなぁー。」  何十年ぶりに見たアサガオは色鮮やかな商店街の街並みに負けじと、その清々しい青色を際立たせていた。支柱に力強く巻き付く、その凛々しくて清らかなオーラは、まるで喧騒な世界から切り出せれ、そこだけ時が止まってしまっているかの様に感じた。 「夏休みの宿題で育てたよね。私、世話サボっちゃって結局枯らしちゃったな。」 「こういうの下手だもんな、お前。俺は最後まで育てたぞ。」 「嘘。デパートで鉢ごと買ってくるのを見たって近所の人から聞いたよ。」  昔のことを思いだし談笑していると、同じ鉢にあるのに色が違う花がいくつか目についた。ひとつは赤色で萎みかけている。もうひとつは生命に溢れているけど白色の花だった。 「ねぇ。同じアサガオなのに色が違う。変なの。」 「うん? あー、何でだったっけなぁ…萎んでいる方はどうしてだったか思い出せないな。」 「白い方は分かるの?」 「あぁ、それは欠陥品なんだよ。」  ほんの一瞬だけ、その言葉が胸をつついた。 「…不良品ってこと?」 「いや、そうじゃなくて。花の色素に関わる遺伝子が欠損するとそうなるんだよ。花びらにアントシアニンっていう青とか紫の色素があってさ。その色素の遺伝子が正しく読めないと色が付かないんだってさ。」 「へぇー物知りだね。さすが大卒。やっぱり頭いいんだ。」
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