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デパートの自動ドアを出ると、まだ少し冷たい風とは裏腹に、春の兆しを思わせる陽光がアスファルト一面に火照っていた。
休日のショッピングモールの駐車場は、広いスペースの隅まで車で埋まっており、僕はすっかり見失ってしまったマイカーの銀色を探す。
だいたいの方向に目星をつけると、僕は買ったばかりの炊飯器の箱を抱え直し、無意識のうちに空いた手を後ろに差し出してしまっていた。
「ほら、美咲」
「は?」
思わず口をついてしまった失態に自分でも驚き、振り返ると、そこにはフライパンやらお風呂マットやらを両手いっぱいに抱えた美咲が、怪訝な目で僕を見ていた。
行き場を失った手で頭を掻きながら、僕は取ってつけたような誤魔化しを言う。
「炊飯器にご飯が余ったらな、少しだけ水を入れてから保温にしとくといいぞ。
そうすれば、ご飯がカピカピにならないからな」
「ふーん、そうなんだ」と起伏のない声を返しながら、美咲は僕を追い抜き、さっさと駐車場へ歩いて行った。
このショッピングモールの駐車場やロータリーは、車の往来が多いから、必ず美咲の手を取って渡る──
そんな過去の慣習が意図せずにもよみがえってしまったのは、デパート内で多く見かけた子連れ客のせいだろうか。
それとも、僕が娘と2人きりでここを訪れるのが、随分遠い昔以来だからだろうか。
当然だけれど、今ここにいるのは、かつてプリキュアのオモチャを泣いてねだった美咲ではなかった。
僕の腕をグイグイ引っ張り、フードコートでたこ焼きを買わせた美咲ではなかった。
僕の肩と並んで歩く娘は、僕よりもよっぽど的確に、車を停めた位置を把握していたのだった。
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