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7
女性が赤子を抱いている。
その瞬間、夢だと分かった。なぜならその光景は、彼には縁がなかったものだからだ。
彼は女性に寄り添うと赤子を見た。
赤子が手を伸ばしてくる。彼がその手に触れると小さな手で指を掴まれた。
「この子の名前、どうしましょうか?」
幸せで堪らないという表情をする彼女に、彼の頬も緩む。そしてどんな名前が似合うだろうかと赤子を見つめた。
視線に気付いた赤子が彼を見て、屈託なく笑う。
その瞬間、周りが明るくなったように感じた。
「ーーあかり」
「えっ?」
女性が驚いた様子で彼を見上げる。
「この子は周りを灯すように笑う。だから、灯すという漢字を使って灯はどうだ?」
彼の提案に彼女は驚いたように目を瞬かせる。しかしすぐに微笑んだ。
「灯……良い名前ね。私もそれが良いと思う」
女性は頷くと赤子の頬をそっと撫でる。
「君の名前は灯だよ。元気に育ってね」
ーーそこで、彼の夢は醒めた。
目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。
「そっか、あの写真の子は……」
誰もいない真っ暗な自室で、木島は一人呟いた。
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