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 秋の柔らかな陽射しが、窓から差し込む。  木島はリビングでタキを待っていた。  そろそろやって来る筈だ。木島が壁時計に目を遣ると鈴の音と共に扉が開いた。 「ーーオッサン、起きてたのか?」  入って来たタキが驚きから目を見張る。 「ここまで来る位、どうとでもない」  歩く事は困難だが、全く立ち上がれない訳ではない。ベッドから起き上がって車椅子に乗ってここまで来るのは慣れていた。 「それは知ってるけどな……」  困惑した様子で頭を掻くタキ。そんな彼に構わず、木島は本題を切り出した。 「昨日の写真の事だが」  写真という言葉に、タキがぴくりと動きを止める。どうしてもあの写真の事には触れられたくないらしい。 「あの写真の子は……あかりって言うのか?」 「!」  タキが持っていた買い物袋を落とした。 「どうしてそれを? まさか……」  震える声でタキが尋ねる。その声は恐れているようで、そしてーー微かに期待しているようでもあった。  木島は真っ直ぐ彼を見据える。そしてゆっくり口を開いた。  「赤子を抱えた女と、傍に寄り添う男の夢を見たんだ。赤子の名前をどうするか訊いた女に、男は赤子が周りを灯すように笑うから灯にしようと答えていた」 「…………」 「笑ってもいいぞ。どうせ年寄りの戯言だ」  夢で見たからなど馬鹿にされるに決まっていると分かっていた。しかし木島は誤魔化す事なく話した。 「……そうか」  長い沈黙の後、タキが重く息を吐く。しかしそれだけで笑いも否定もしなかった。 「あの写真の子は知り合いなんだろ? だったら教えてくれないか?」  木島は身を乗り出しタキに頼み込んだ。  あぜあんなにも写真の子供が気になるのか分からない。しかしあの写真を見て見ぬ振りは出来なかった。 「昨日言った筈だ、あんたには関係ないって」 「じゃあ何であんな夢を見たんだ?」 「……そんなの、オレが知るかよ!」  木島が問い詰めると、タキが乱暴に机を叩いた。  大きな音が出て木島は驚く。  彼の怯えた反応に、タキは我に返る。そして木島から目を逸らした。 「悪い……むきになった」 「……いいや。俺も悪かった」  謝るタキに自分も大人げなかったと、目を伏せる。  タキが大きく息を吐く。そして、眉を下げて木島に微笑んだ。 「――夢は偶々だよ。あの子はオッサンと何の関係もないし、知る必要もない」 「だが……」 「あんまりしつこいと今日の朝食、トマト倍に増やしてやるけど」  タキが嫌ににこやかに告げる。  しかしそれが最後通牒だと木島には分かった。  これ以上は踏み込めない。タキが踏み込むのを許さない。  木島は口を噤み、タキから視線を逸らした。  タキが小さく溜め息を吐く。そして落とした買い物袋を拾うと台所に行った。 (遠いな)  タキの背中を見て、木島は妙な寂寥感に苛まれた。
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