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いい人になりたい。
そんな、至極真っ当なことを思いながら生きてきた。
誰かを救いたい、ヒーローになりたいといった大それた願いではなく、もっと漠然とした理由で、いい人になりたかった。
いい人になるためにはどうするか。
まず友人の苦しみに寄り添い、手助けをし、話をとことん聞いた。
中学の頃、多くの悩みを抱えていた友人が言った一言が忘れられずいる。二人でごみ捨てに行ったタイミングで周りには誰もいなかった。顔を歪ませながら、憎々しく吐き捨てたのは
「いい人ぶるな」
その言葉の意味をゆっくりと噛み砕く。
そういえば、ずっと言ってやりたかったんだ、とも言っていた。
理解が追い付かず、反論もできなかった。
小柄な彼女のものは思えないほどの気迫に、ただ押し黙っていた。
泣いて崩れていく彼女を見下ろしながら。私は何を間違えてしまったのか考えた。でも、とうに真っ白になった頭では、整理できなかった。ただぼーっと突っ立っていることしか出来ずにいた私を彼女はこれまた憎らしそうに、突き刺すように見上げていた。
あぁ、よく覚えているよな、私も。
忘れたくても忘れられない。
どんなときも彼女はありがとうと言ってくれた。あれは、何だったのだろう。
今までそんな素振りをひとつも見せなかったのは、隠していたからなのだろうか。
実際は、彼女のためになれてなかった。彼女は震えていた。その震えの理由が私には怒りか悲しみか分からなかった。そのあとすぐ涙を強引に拭って、足早に教室へ戻っていってしまった。
最近、夢の中で彼女に会う。思い出に残るほど楽しんだ修学旅行のシーンでも、遠くに遊びに行ったときでもない。苦しそうな声で吐き捨てる、私が最後に見た彼女だ。
私は確かに、いい人になろうと努めていた。本当にいい人はそんなことを思っていないことも、なるものではないことも、よく分かっている。それでも。確実なのは。
私はいい人を装って彼女と接していたのではない。彼女のためになりたかった。彼女の救いになりたかった。
彼女を思っていた。
私はいい人になりたかった。
でも、いい人はなるものじゃない。
下手な優しさはかえって、相手を不安にさせてしまうのだろう。
私はいい人になれない。
でも、いい人にはなりたい。
私は、どうすればいい?
どうすれば。
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