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「下僕一号の分際で、あたしを褒めるとは何事か! 唇を歪に縫い合わせ、ストローだけで、ぐう、胸があ」
痛みがしつこくぶり返す。
「どうして崩壊するんだって訊くとこだよね」
若造に肩を揺さぶられた。
「摩訶雪燃ゆ奈はゾンビのままだから、生きているときとは逆の現象なってるんじゃないかってこと」
「揺さぶるな。呼び捨てにするな。ゾンビのまま扱いするな。靴の中敷き野郎が、はうっ」
「生きているあいだは、精神が悪意とか狂気とか高慢に満ちていても、肉体と分離する不都合はなかった。今は無理矢理に融合させているから、負の感情が影響し、精神と肉体が元どおりに離れようとするんだ。魔力が増大した状態で分離が始まると、意識で制御されない魔力が暴走し、派手な崩壊を起こす。免疫過剰による自己破壊に似てるかな」
「あたしは高貴なのだぞ。穢らわしさの欠片もない。知った口を利くおまえの体温は玄関マットに相応しい、ううっ」
腰の手鏡をもぎとられた。
「見てごらんよ」
頬骨が露出し、唇が紫色になって萎んでいる。
「ぎゃあああ! あたしじゃないいい」
立っていられず、地べたに横座りになる。
「偉大な魔女が、這いつくばって、なるものか」
力の抜ける腕で上半身を必死に支えた。
「凄まじいプライドだけど、悪態吐くたびに朽ちている。さっきから僕が目の前で確認しているよ。データは充分だ」
あたしは立とうとするが、膝関節が外れそうで叶わない。あげくまた魂のみになりかけ、肉体の操作が糸の絡まった操り人形みたいにもどかしい。
「さっき戻ったときはどうだった? 純粋な気持ちだったんじゃないのかい」
優美、美麗。妖艶、艶美。言葉を尽くしても足りない摩訶雪燃ゆ奈様に戻りたい、と心から望んでいた。
「惨めなのは嫌。こんなのあたしじゃない」
枯れた感覚の肉体だが、目頭は熱くなり、地面が濡れた。
「美しいのがあたし。美しいのがあたしの全て」
プールいっぱい分の羽毛に身を沈めたぐらいの心地よさで、肉体が癒えていく。
「やっぱりそうだよ! 美しくありたいって動機は不純じゃない。雑念なく純粋に想いを募る真摯な気持ちが必要なんだ。ならば精神と肉体の結びつきは、つまり生存は、性善説が根底にあると証明できるかもしれない。いいぞ」
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