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あたしは健康な体で立ち上がる。
「実験道具扱いしてんじゃ、ああもう」
内臓の不具合と皮膚の爛れを、敏感に察知できるようになってきた。
足元の魔力が低下し、ふらつき、若造にしがみつく。
「あたしから名を訊くことを光栄に、はうあ、とにかく、おまえ、なんて名だ?」
「阿向沙漠」
「ずいぶん乾いた名だねえ。あたしは正式に蘇生できるのか?」
「僕が文献で知るかぎりはネクロマンシーが限界だ。鮮度のいい死体に一時的に魂を入れ、仮初で生きているように見せるってやつだ。それも事実であるかは疑わしさ満載だけど」
「無理だとは言わせねえぞ、いえ言わせないわ」
「言ってないよ。近代の魔女は過去の文献にはないんだから。君が善意を尽くしていった結果、もしかしたら、あのさ、尖った爪が喰いこんで痛いんだけど、離してくれ」
あたしがこんな近くで見つめているのに、この若造はなぜか美貌に屈しない。こんな男は初めてだ。サバクの名の通り、心が乾き切っているのか?
だが虜にならなければ怯えもしない、こういう異常な人間じゃないと、あたしが抱えた難題は解決できないかもしれない。
あたしは決めた。阿向沙漠の唇に吸いつく。
「何を?」
さすがに怯みやがった。
「本来なら一兆円だぞ。契約だ。逃れられないからな。特務で優遇する。おまえの皮膚が睡眠不足で爛れ落ちようとそっちのけで、摩訶雪燃ゆ奈様の皮膚が二度と爛れ落ちないよう、今のなし」
言葉は精神と直結していて影響が出やすい。最も気をつけないとならない。
あたしは何度も咳払いし、髪の毛を手櫛で整え、覚悟した。
「サバク様、一生懸命に尽くしますので、わたくしを生き返らせてくださいませ。お願い致します」
あたしは心を地べたに這いつくばらせる想いで謙った。
ゾンビな魔女でいるよりは増しだ。
真に蘇生したなら、この燃ゆ奈様を謙らせた重罪で、究極の拷問にかけてやる。って心で思うのも後回しよ。
あたしと阿向沙漠の切れない生活が始まるのだった。
〈第二章に続く〉
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