5.グレンの気持ち、そして

2/4
1103人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 その時、あたりを震わせるような獣の唸り声が轟いた。人間のシリルにも分かる、格段の強さを持つ者の雄叫び。おそるおそる瞼を開けると、ひときわ大柄な豹の獣人が狼の獣人を殴り飛ばしていた。まるでスローモーションのように、狼がシリルの前を飛んで、窓際の壁にぶつかった。 「セスさん……あんたが、お前がシリルを悲しませていたのか。……卑怯者!」  体勢を崩し、しゃがみ込んだ狼を豹が追い詰め、その顔を何度も殴る。 「やめてくれ、グレン! 僕はシリル君の先輩だよ? きみにも借りがあるはず……ぐっ!」  殴られながらも、セスが説得しようと叫ぶ悲鳴が切れ切れに聞こえる。グレンは一向に構わず、無言のまま刑を執行するように暴力を与え続けた。次第にセスの声が聞こえなくなり、殴打する鈍い音だけが仮眠室に響きだして、やっとシリルは我に返った。セスは歯が欠け、鼻血を出して口を開けている悲惨な姿と化している。 「グ、グレン、もういいから。もう意識もなくしちゃってる。死んじゃうよ」 「死ねばいい。お前を幼い頃から苦しめてきた犯人だ」  狼を見下ろす豹は、裁きを下す王のように冷徹な瞳をしている。獣特有の、宝石のように美しい目だと思った。 「もういいんだ。脅されているときは怖かったけど、グレンがこいつを殴り飛ばしてくれたときスッとしたから。夜警をしている警備を呼んで、しかるべき場所で罪をぶちまけてやる」 「そんなのでいいのか」 「いい。グレンが充分すぎるくらいにやっつけてくれたから。何人も殺した癖に、長年自由でいたんだ。きっと罪が重いだろうし、それが好き勝手に生きてきたこいつには一番堪えると思う」 「……そうか」  グルル、と唸るとグレンは踵を返して夜警の者を連れて来た。一人では大変そうだからと、牢屋のある地下までセスを背負って行った。  仮眠室に戻ってきたグレンを見て、照れくさくなってしまった。散々拗ねて口も利かなかったのに、グレンはシリルを助けてくれた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!