6.夏至祭の夜

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 グレンが微笑んだとき、手に松明を持った男が木材の山に近付いてきた。 「おおい、火を点けるぞ! 皆、焚き火のそばから離れてくれ」 「火が来た、夏至祭の本番だ!」  木の小山から離れると、薄暗くなっていた辺りが火に照らされ明るくなった。火の粉が舞い、パチパチと木が爆 は ぜる。音楽隊が軽快なメロディと奏でると、人々は手を取り合って踊り始めた。 「僕、何度来てもちゃんと踊れないんだけど、一緒に踊ってくれる?」 「もちろんだ」  差し出した(てのひら)をグレンが肩に乗せる。身長差で腕がつりそうだが、せっかくグレンと踊れるのだ。焚き火の周りを踊ってゆくと、なにやら人だかりがしているところがあった。小さな焚き火を、男女で飛び越えているのだ。 「火を飛び越えると、結婚できるって噂があるんだよね」とグレンを横目で見ると、「そういうことには詳しいんだな」と言われた。どういうことか説明してもらいたい。むくれていると、グレンが急に踊りをやめた。水色の瞳にはおどけるような光が浮かび、くいっと顎をしゃくった。 「俺たちも一緒に、あの火を飛び越えるか?」 「……うん!」  二人して小さな焚き火まで走って行き、順番待ちをしているカップルのあとに続く。少し離れたところから助走をつけて走る。 「行くよグレン、せーのっ!」  足元から吹いてくる熱風を感じつつ、ふたり並んで跳躍する。振り返ると、自分たちの起こした風で炎がゆらゆらと揺らいでいた。焚き火を見守っていたギャラリーたちが一斉に笑いだす。 「おふたりさん、勢いがありすぎて火が小さくなっちゃったぜ」 「だが、これくらい大きく飛び越えたら結婚も確実だ。お幸せにな!」  拍手まで湧き起こり、シリルたちを祝福してくれる。恥ずかしくてぼうっと立ちつくしていると、シリルより照れ屋なグレンがウウ、と唸った。 「目立ってしまったな。ここから離れるぞ」  手を引かれ、ひとけのない茂みまで歩く。薄暗い中、夏至祭の焚き火が燃えさかり、人々の熱狂がたけなわなようすがよく見える。  シリルは繋いだ手をきつく握った。悩み相談小屋では騙されたが、そのおかげで自分の両親を殺した犯人を、グレンが探していたことが分かった。そして、そのことをおくびにも出さずにシリルを見守っていてくれたことを思うと、胸がキュッと締め付けられる。 「お父さん達のこと調べてくれてありがとう、グレン。色々あったけど、楽しかった。今日が終わらなければいいのに」  離れたくないよ、と小さく付け足すと、息が苦しくなるほどの力で抱きしめられた。 「グ、グレン……っ」 「俺もだ、シリル。家に帰って別々のベッドで眠るのは、もうごめんだ。いつまでも親元で生活するのも良し悪しだな。俺と新しい家に住むか?」  耳に吹き込まれる低音に眩暈がしそうだ。 「う、うん。でもそれって」 「結婚という形になる」  少し体を離され、真正面からそう言われた。宝石のような薄青の瞳が、夏至祭の炎を反射する。こんな場所でプロポーズを受けるとは思わなかったので、へなへなと足から力が抜けていく。 「シリル!? だいじょうぶか?」 「へ、平気。だけど気が抜けちゃって……。嬉しいよ、グレン。ありがとう」 「礼を言うのは俺のほうだ。お前は両親と一緒に家にいるほうがいいのかと思っていたけど、俺を選んでくれるんだな」  頬に軽く唇を寄せられ、グレンの立派な長い頬髭があたる。 (くすぐったい……)  そう思っていると、口付けが唇に移動した。誓いを交わすような厳かなキスだった。 「今晩は家に帰らず、宿に泊まろう。おふくろたちも俺達が付き合っていると知っている。帰らない理由を察してくれるだろう」
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