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○
自発的に彼を抱き締めたら、案外悪くなかった。
先程の恐怖心は一切なく、アルパカを抱き締めた時のような充足感。
颯太の柔軟剤がフレッシュシトラス&スパークリングマリンだという事まで特定する余裕があった。
「咲良ありがとう。俺、わかったわ」
するりと離れられ、なぜか妙に名残惜しい。
「何がわかったの?」
「呪い。じゃなくて、これはコイだって事にさ。俺、咲良にコイしてる」
イケメンにしか許されない言い回しで力強く断言した颯太。
本来なら感動的な場面なんだろうけど、拳を突き上げて宣言するポーズは意味不明だし、イントネーション的に“鯉“としか聞こえない。
「正直さ、咲良が頭から離れなくなってすげぇ邪魔だと思ってた。胸がきゅるるんとなるのも苦しいし、時折体がギュンギュンするのも辛かった。俺、こんなジャバジャバした感情、初めてなったよ」
何その擬音……もっとマシな表現なかったんかい。
「……要するに颯太は私が“好き”って事で合ってる?」
「うん! 咲良にぎゅっとされたら胸がアルパカみたいにポカポカするんだ!」
うわぁ……颯太と感性が同じだ。複雑だけど、言ってる意味はよく分かる。
「私もだよ颯太。……幼馴染の関係でいいと思ってたけど、やっぱりーー」
「わりぃ、うんこ!」
一番ダメなタイミングでトイレに消えた幼馴染。数分後スッキリした顔で『じゃ、さっきの続きをどうぞ』とほざいた時はぶん殴ってやろうかと思った。
おそらく颯太にはうんこの呪いが掛かっているに違いない。
残念な幼馴染だけど、まぁ、気長に付き合って行こう。
彼とはこういうウン命なのだ。
完
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