第1話 下敷きと感触

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 放課後のチャイムが鳴る。結局最後まで寝れなかったが、担任に呼び出しを食らっているので面倒だが、教務室に行かなければならない。  本当に大変面倒だが、椅子を引き腰を腕の力で一気に持ち上げ、教務室に行くため荷物を持って扉に視線をやると顔立ちの整った女子生徒が廊下を通りすぎて行った。あまりの美しさに見とれていた俺は、十数秒間の間そうしていただろうかいつの間にか、目の前に担任が立っていた。  「おう、六条。何ぼーっとしてんだよ。先生待ちくたびれて迎え来ちまったじゃねぇか。ちょっと?おーい、聞こえてますかー?無視されると先生傷付くんですけど~?」  その声に反応して俺は一気に現実に引き戻される。  「げっ、松T……」  「げっ、とは何だ。わざわざ来てやったんだから感謝しなさい」  この見た目は良い女性は、松Tこと三松(みまつ)陽子(ようこ)俺の家に居候で住んでいる従姉弟だ。  ちなみに、ものすごくどうでもいい話だが夏目はまっちゃん呼びである。  「何様だよアンタ」  「心の声が漏れてるぞ?」  「漏らしてんだよ」  いや、漫才をやってる場合ではない。さっさと、用件を聞いて帰ろう。  「それで?用ってなんだよ」  「ああ、そうだった。忘れてた訳じゃないぞ?」  「いいから、早くしろ買い物しなきゃなんだから」   最近冷たくない!?とかほざきだしたが、夕飯を作らなければならないので、本当に早くして欲しい。  「それは、いけない!夕飯は大事だからね!うんじゃあまあ、はい」  そう言って俺に一枚のプリントを渡してきた。  「これは?」  「それ、一ノ瀬香織(いちのせかおり)って女の子に渡しといてくんない?」  「そんなの俺じゃなくても良いだろ……」  「いや、それがさぁ~他の生徒に頼んでもみんな翌日渡せずにもって帰ってきちゃうんだよねぇ~。私が、渡しに行こうにも全然見つかんないし……。えっ、待って、これ避けられてるの?避けられてるよね!?」  だんだんヒステリックになってきたから仕方ない。さっさと、渡して帰ることにするか。  「わかった。渡すから落ち着け松T」  「本当に!?助かるぅ~」  「それで、どんな感じの人なんだ?」  「うん、何かもうモデルか!?ってぐらい美人な子!」  よし!わかった。絶対さっきの女子だ。  俺は、彼女を探す───もとい追いかけるべく早々に松Tとの話を切り上げ駆け足で向かった。  「あっ、おい!何処にいるのかわかるのか~!」  「さっき、それっぽい女子が通りがかったから!!」  後ろからは、そうか、でも廊下を走るなよぉっとやる気のない声が聞きこえたがここで走らないと追い付けないので無視して走る。  先程の進路方向的に、そのまま玄関に向かったのだろう。  (今から走ればそう遠くには行ってないと思うし追い付ける。確か、鞄のポケットにカードっぽいの入れてたから恐らくバス通い。ここからだとバス停も遠いしまだバスが来るような時間帯はなかったはずだ!多分!)  一ノ瀬香織を探して数分くらいしただろうか。  学校から少し離れた所にある歩道橋に上ろうとしているそれらしき人物を発見した。  俺は、先程よりもスピードを上げ歩道橋の上まで行く前に何とかその下まで辿り着いた。  息を少し整えてから上を見上げ確信はなかったが、取り敢えず呼び止めたのが悪かった。  「そこの女子!ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!!!」  その声にびっくりして彼女が振り替えると同時に足を踏み外してしまった。  落ちてくる彼女を受け止めない訳にはいかない。と言っても、ひ弱な俺では受け止めきれずガッっという鈍い音がした。  (あ~、やっぱり引き受けなきゃよかったなぁ~。まさか、こんなところで死ぬなんて……でも、まあ女子に潰されて死ねるならいいか……ふふっ)  意識を失う前に気持ち悪いことを考えてたような気もするがまあいいか。  気を失う前に何やら柔らかいものを触っていたような感触があった気がするが、多分気のせいだろう……。
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