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目が覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。体を起こそうにも全身が痛みで動けない。
仕方なく首だけで周りを見るがやはり見に覚えのない部屋だった。
病院かとも思ったが、それにしては物が揃いすぎているし、何より病院独特の薬臭さがなかった。
暫くすると、扉をノックする音と声が聞こえてきた。
「お目覚めですか?水をお持ちしました」
とてもお上品な言葉遣いで、俺が起きているか確認していていた。
さすがに、起きているのに寝たふりは良くないので掠れる声で起きていることを知らせる。
「あ、ああ……」
「失礼します。すみません、起こしてしまいましたか?」
「ぃや、さっき起きたばかり……です。それと、水をくれると助か……ります」
慣れない敬語で何とか言葉を絞りだし水を貰い飲むと彼女は飲み物をまた注いでくれた。
「ありがとう……ございます……」
「いえ、それよりその制服の色からして私と同じ一年生ですよね?それなら、別に敬語じゃなくても構いませんよ?」
そう言って彼女はにこやかに笑う。うちの学校は、制服の色が学年によって違う。この場合、俺の夏服のシャツの色を見て判断したんだろう。
ちなみに、どうでも良いが、一年は緑で二年が赤、三年が青という感じだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。俺は、言われた通り遠慮なく慣れない敬語をやめて言葉を崩して喋ることにした。
「んじゃあ、遠慮なく。そういうアンタも崩したらどうだ?」
「いえ、私は大丈夫です……」
これは、あまり深く突っ込むと面倒事になるぞ!っという警告が聞こえた気がした予感がしたので別の話題に切り替えることにした。
「あぁ、その……ここは、アンタの家ってことでいいのか?」
そう聞くと、暗い顔だったのがまた明るい顔に変わっていき俺の質問に答えてくれた。
「はい、ですが今は家に誰もいないので安心してください」
「いや、何を安心するんだよ」
松Tにより鍛え上げられたツッコミを決めていく。正直、松T以外で役立つとは思っても見なかった。
「す、すみません!そ、そういう意味じゃなくて、あの……家の親に変な風に思われないというそういうことでして……!」
そういうことは、どういうことか分からないが……いや、厳密には分かるがまた話が逸れてきたので追及するのをやめておく。
「それで、この家がアンタん家ってことは分かったが、いったいどうやって運んだんだ?まさか、担いで……何てことはないんだろ?」
そう聞くと彼女は、はて?っとまるで何分かりきったこと聞いてるんだろ?みたいな顔で教えてくれた。
「タクシーですよ?」
「え?」
「ですから、タクシーです」
いや、待て待て。普通の女子高生がタクシー代払えるわけないだろ。いや、まさか、お小遣いおばあちゃんからめっちゃ貰うタイプか!?
「本当は、五嶋さんに車を出して貰いたかったのですが、先日腰をやってしまって……」
「えっ?五嶋?車を出して貰う?」
「え、ああ、はい。五嶋さんというのは、家のドライバー兼庭師さんのお名前です」
ヤバい……これ、ヤバい。まさかのガチのお嬢様だ。いや、待て早まるな!もしかしたら、従兄弟とか伯父か何かが居候で働かせてもらってるという可能性を……!よし!ここは、然り気無く聞いてみよう。
「もしかして、メイドとかいるの?」
全然然り気無くねぇよ!どうしてなの俺!?語彙力ないの?いや、語彙力どうこうよりコミュ力大丈夫!!?そういえば、俺友達いなかったわ!!!!
「いえ、メイドは、家には居ませんよ。メイドでは、ありませんが、家政婦さんは数人いらっしゃいますよ」
俺が、悶えているうちに答えてくれた。
OK!これは、どんなに適当な妄想重ねても間違いなくお嬢様だ!ヤッタネ!
いや、良くねぇ。一歩間違えれば、俺の省エネ人生がなくなるかも知れない。もし、同じ学校の生徒になんてあったら変な噂がたちまち広がっていき、というか、家には?家にはって何!?何処かにはいるの!!?……よし、考えるのやめよ。
「あ、あの、聞いてますか?」
「へ?」
いきなり話しかけられ情けない声で返す。いや、きっと俺が変な考えをしているときに話しかけていたのだろう。
「ああ、悪い。何だっけか?」
「?今の時間帯は、六時半くらいですがお家の方に迎えに来てもらいますか?」
どうやら、彼女は俺の帰りの心配をしてくれてるみたいだった。
「ああ、いや大丈夫だ。近くのバス停を教えてくれればあとは一人で帰れるよ」
「そ、そうですか?では、バス停までお送りしますね」
そういうと彼女は立ち上がりちょっした身支度を始めた。
「え?いや、近場のバス停を教えてくれるだけでいいんだけど……」
「もう……では、言い方を変えますね。送らせてくれませんか?」
いや、言い方の問題じゃないんだけどな……まあ、いっか。あの目は、頑固者の目だそんな感じがする。それに、今日はツッコミ疲れた。いや、俺が勝手にツッコんだんだけどね!?
「さあ、行きましょう!忘れ物はありませんか?」
「おう、アンタも忘れ物はないか?」
そう、茶化すように聞いてみた。いや、まあ実際茶化したんだが……。
それに、クスッと笑って答えた。
「ふふっ、そうですね……ありました。忘れ物」
「うおっ、マジか」
「私の名前、アンタじゃなくて一ノ瀬香織です」
そんなことかよ!っと言いかけて止める。
「そうか……。俺は、六条蓮樹だ。よろしく」
いつぶりだろうか、真面目に自己紹介をしたのは……。少し照れくさくて赤くなった顔を隠すように夕焼けの空を見ていた。
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