第1話 下敷きと感触

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 一ノ瀬にバス停まで付きまとわれ……否、送ってもらい別れて家に着く頃には八時を過ぎていた。  玄関を開けると明らかに女性の物と思われる靴が一足あった多分陽子のだろう。  俺が玄関を開けるなり表れたのはどこぞの映画でみたようなしわくちゃな顔で出てきた。  「遅いよ……死にそうだよ……」  「安心しろ。そう簡単に人間は死なん」  冷たい!お腹空いた!っと騒いでるのを無視して台所に向かう。  「さて、今日は何作ろうか……な」  「あっ、お帰りなさい!今日は、シチューですよ」    そこにいたのは、バス停で別れたはずの一ノ瀬香織だった。  後ろを振り向くと三松が理由を説明してくれた。  「一ノ瀬さん何かよく分かんないけど来た」  「いや、説明になってねぇよ!?というか、家に上げないだろ普通!!」  「何かめんどくさかったから考えるの止めた」  こいつ、なんで教師してんだろ。  「まあ、いい五千歩譲って居るのは良いとしてなんで料理してるんだ?というか、出来てるんだったらさっさと食えばいいだろ」  「先生がお腹空いてるそうだったので、作っちゃいました!」  「ちなみに、私は食べたけど蓮樹のみてたらお腹空いてきちゃった☆」  きちゃった☆じゃねぇよ!?その食欲をもっと別の方に使えよ!というか、アンタ何で太らないんだよ!アニメのキャラか!?  「ふふっ、先生は、食いしん坊さんですね?ですから、蓮樹くんが帰ってきたらおかわりいいですよって言ったんです」  「いや、食いしん坊どころじゃないと思うんだが……」  「まあ、良いじゃないか!早く食べようぜ諸君!」  あなたこれで二杯目何だよね?何今から食べるみたいに言ってんの!?  もはや、ツッコミを言うことすらめんどくさくなりつつあるが、心の中でツッコミをするという……一種の職業病になりかけてね俺?  「それで、改めて聞くけど何で家にいるんだ?というか、俺、一ノ瀬に家教えた覚えないんだけど……」  「階段から助けていただいたのに、このままではダメかな~っと思いこっそりGPS着けて調べましたっ……///」  顔を真っ赤にして何恐ろしいこと言ってるのこの子!?いや、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないよ!?ストーカーだよ!!?  「まあまあ、お礼なら大丈夫だよ~。シチュー美味しいし」  こいつは、ダメだ。使い物にならん。役立たずお前それでも教師かよ!!  心の中で悪態をつくがそんなもんは意味がないし、長年の経験から言ったら絶対泣きながら絞めてくる。  俺は、腹が空いていたのでとりあえずシチューをかきこんでいく。  諸君分かってると思うが、もちろん火傷した。痛い。アツアツだったよあのシチュー。  涙目になりながらも身支度をしていく。  「何処かにお出掛けですか?」  「出掛けるも何も、一ノ瀬を送るんだよ。もう、暗いし女の子一人じゃ危ないだろ?」  ちなみ、送らなかった場合三松に絞められる。  そんなわけで送らない以外の選択肢がないし、さっさと送らないと面倒し、今日は疲れた主にツッコミにだ。  「ほら、支度しろお前も。行くぞ」  「ま、待ってくださいよぉ~!というか、もっと味わって食べても良かったのでは!?」  味わって食べてられるか!俺には、やらなくちゃ行けないことがたくさんあるんだ。いや、まあないけど……。  「ひっては~」(訳:いってら~)  「食べながら喋るな!!」  「残ったシチューも食べていいですからね~先生!」  そうして、一ノ瀬を送りに外に出た。  ちなみに、家に帰ったときにはシチューは綺麗になくなっていた。  バスを待ってる間無言が続く。ヤバイ……話すことない。気まづい!  「あ、あのさ……その家の人は大丈夫なの?こんな遅くに帰ってきて」  「大丈夫ですよ。家には滅多に帰ってきませんし」  「そ、そうか」  会話終了~。俺のコミュ力ゴミかよ……。コミュ力なんてなかったんや……。  そんなことを考えてたらバスが来ていた。  「おっ、バス来たな」  「そうですね。今日は、ありがとうございました!」  「お、おう。ここで、大丈夫なのか?」  「はい。知ってると思いますけど、私の家はバス停の近くにあるのであとは大丈夫です」  そうか。そう言ってバスに乗り込む一ノ瀬を見送って終わった。  何か、呆気ないというか。もっと、こう何かあるもんじゃないのか……。  「はぁ、何考えてんだよ俺は……帰るか」  頑張ることが嫌いだ。出来ることなら省エネに生きたい。  期待されるのは苦手だ。出来ることなら何にも縛られずに生きたい。  夢を見ることは止めた。夢を見て虚しい思いをするのは自分だから───。  ブーブーっとバイブレーションが鳴る。  ポケットに入れておいたスマホを取り出すと左上のLEDライトが点滅していた。通知が来たときに光るアレだ。  ロックを解除すると、そこには一ノ瀬からのメールが来ていた。  『今日は、助けていただきありがとうございました! その上お礼という理由でお家にお邪魔したことすみませんでした😢⤵️⤵️  また、明日学校で会いましょうね!(*^▽^*)』  という、内容の物だった。久しぶりに知り合い以外からメールを貰った。  俺は、少し照れ笑いのような苦笑のような微妙な顔で天を仰いで返信した。  『お前……どうやって俺のスマホのロック解いたんだよ……』
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