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 走る公害だったと思う。結局来た道を戻ってギンとビルの隙間を縫うように走った。警察官は結構しつこく追って来て、そこで事の重大さに次第に気付いていった。この歳でお縄は嫌だ。私は何もしていない。なのに元凶の横で走っているこのガキンチョは終始笑顔で私とのかけっこを楽しんでいる様子だった。 「この先に知ってる店がある! かくまってくれるからあそこに飛び込もう!」指差した先の内臓むき出しのビルにはダクトの穴が覗いていた。  息が上がりっぱなしでもはや従うしかなかった。ギンに続いてダクトに体を滑り込ませる。落ちた場所はその店のキッチンらしかった。尻餅をついて痛がっている間に野太い声が聞こえてくる。 「いやんギンちゃん!? どうしたのー! ちょっとあんたクッサ!」  ギンがキャミソールを着たオッサンに絡まれていた。そうかそういう店か。 「このブサイクなメス豚は何? 煮込む用?」一人のマッチョなオネエが私に顔を近づけ睨みつけた。 「その人俺のツレだよ。逃げてんだ、オマワリ来たら追っ払っといてよ」キャップの位置を直しながらギンが答える。 「構わないけど、それならあんたたち一杯付き合いなさいよ」 「わっしょい!」  ホールに連行されギンとカウンターに座らされた。周りを見渡すと照明は赤色で艶かしく、点在するマットレスの上で様々な人種が思い思いの営みに耽っていた。ドローンを操って自分のハゲ頭に蝋を垂らしたり、VRを装着してロボットに尻を犯されていたり、アソコをミニセグウェイに轢かせていたり。まるでちょっとした博覧会だった。 「どーぞ!」  目の前にショットグラスを置かれたまでは良かった。何のためらいもなくカウンター越しのオネエは取り出したパケからテーブルに白い粉の線を二本引いた。 「え・・・これって?」 「片栗粉。なわけねえだろブス。ここの名物〈プラズマショットガン〉。とくとご賞味あれ」紙幣でできた筒が手渡される。 「あれれーイチカちゃんビビってんのー?」  ギンはトランプのジョーカーみたいな顔して受け取った筒を指先で回している。クソガキ。 「私は西の生まれなの。粉物には目がなくてよ」我ながら上手く言い返せたけどオワタかも。もうどうにでもなれ草。 「はい行くわよー、ハイになってハイになってハイのハイのハハハーイ!」  オネエの音頭に合わせて二人して粉を鼻から勢いよく吸い上げ、その流れでグラスをテーブルに叩きつけショットガンを呷った。テキーラが喉から胃にかけて火を灯すと、次に尾てい骨から脳髄に向けて稲妻が逆さに走る。ああ、この感じ久しぶり。夜が自分に吸い込まれているのか、自分が夜に吸い込まれているのか分からなくなるまでそう長くはかからなかった。
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