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ハルカ―――「遥」と書くのかと勝手に思っていたけど、そうか、兄ちゃんの名前の「悠」は、ユウとも読むけどハルカとも読めるもんな。だから「ハルカ」?ああなるほどな。
なんてことを考え納得するくらい、僕は落ち着いている。
ネットで知り合った人間、それもエッチな電話をしていた相手がまさか自分の兄だったなんて、驚かないわけはない。もちろん混乱はしている。
だけどさ、兄ちゃん、なんだかこれはこれでいいような気がしてるんだ。
だってそんな表情見せられて、止められるわけないでしょ?
「ぁ、あ晶人、もう、やめろ‥は、離せ‥」
兄ちゃんが唇を震わせながら言う。
反抗のつもりなのか、兄ちゃんは真っ赤に充血した目で僕を睨み付けた。
さっきから僕の腕を振りほどこうとしているみたいだけど、無理だよ。だって兄ちゃんの腕も体も折れちゃいそうなくらい細い。力も、まるで子供みたいに弱い。
僕が力を込めて抱き締めたら、ポキッと折れちゃいそう。
「よくそんな口きけるね兄ちゃん。兄ちゃんがドMで変態だってこと、僕にバレてるんだよ?恥ずかしくないの?」
微笑を浮かべながら責めるようにそう言うと、兄ちゃんは一層泣きそうな表情を浮かべた。
「そんなの、間違い、間違いだからっ‥違う、‥‥違うから」
「違う?何が違うの?何も違わないでしょ。‥‥‥ね、ハルカさん」
兄ちゃんの真っ赤になった耳元に口をつけて、わざと息があたるようにボソッとその名前を囁いた。
「ぁ、っ‥」
兄ちゃんの体がビクン、と跳ねる。
兄ちゃんはきっと、電話しているときの僕の声を思い出しているだろう。電話中、ハルカさん、と何度もその名前を呼んだ。低い声で、甘く囁くように。名前を呼ばれる度に、ハルカさんはいつも切なそうに声を震わせ、息を荒くした。
僕は知っている、ハルカさん‥‥いや、兄ちゃんは名前を呼ばれるだけで興奮しちゃうってこと。
「や、め‥‥」
「やめないよ」
やめろ、と言われて素直にやめるわけないじゃないか。
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